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独立行政法人産業技術総合研究所 安全科学研究部門
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リスク評価ツールとしてのモデルの開発

2010/05/01 東野晴行

従来のモデルは“ツール”ではなかった

私がリスク評価の研究に携わるようになったのは産総研が発足する少し前(90年代の終わり頃)からですが、当時、リスク評価(のための曝露評価)の分野では、大気拡散モデルなどの数理モデルはあまり活用されていませんでした。
もっとも、大気拡散モデル自体は、従来から簡単なものから複雑なものまで数多く提案されていて、大気科学の研究や、コンサルタント会社による環境アセスメントの実施等で活用されていました。しかし、化学物質のリスク評価の分野では、プリューム・パフのような簡単なモデルでも、濃度分布を推定できるモデルが実際にリスク評価に活用されることはほとんどなく、モデルの利用は、Mackayモデルに代表されるようなマルチメディア型のワンボックスタイプのモデルが、スクリーニングで用いられる程度でした。
従来の大気拡散モデルでは、リスク評価で必要とされる性能を満たしておらず、使い勝手もよくなかった、つまり、曝露評価のための“ツール”として良いものがなかったからです。
 

リスク評価で要求される性能

実際のリスク評価では、どのようなスペックが要求されるのでしょうか。我々は数多くの大気系化学物質の詳細リスク評価をやってきましたが、そこで必要とされたスペックを解像度に着目して見てみましょう。ここでいう解像度には、空間解像度(地理的な解像度)と時間解像度の二種類があります。
まず、空間解像度ですが、我々の詳細リスク評価では、日本全体のリスクを評価することを目的としております。特定のワーストケースだけを評価するのではありません。したがって、日本全国の濃度がどのような分布になっているのかを知る必要があります。しかし同時に、工場や道路の近くに住んでいる人など高濃度曝露(ハイリスク)集団も無視できません。
時間解像度については、対象物質(正確にはエンドポイント。物質によっては複数のエンドポイントがあるので)によって異なります。ベンゼンや1、3ブタジエンのような発がん性物質だと年平均など比較的長期間の平均的な濃度が必要ですが、光化学スモッグのような場合は比較的短期間のピーク濃度を再現できることが重要となります。
従来の大気汚染モデルは、工場や自動車などからの硫黄酸化物(SO2)や窒素酸化物(NOx)のアセスメントを目的に開発されたものが多く、工場や沿道など発生源周辺で、排出は一定の条件下で定常である場合を評価するものがほとんどでしたので、化学物質のリスク評価には必ずしも適したものではありませんでした。
暴露・リスク評価で要求される解像度

操作性と付加機能

リスク評価にモデルを使用する場面を想定した場合、ユーザーは、リスク評価にはある程度の知識はあるでしょうが、数値モデルの専門家ではありません。これらのユーザーがモデルを気軽に使えるように配慮するには、モデルの操作性や計算結果の見せ方は大変重要なファクタとなります。また、モデル構造が理解しやすく、特別な計算機を導入することなく、簡単な操作で、曝露・リスク評価での使用に耐えうる結果が得られるモデルが必要です。また、複数物質や複数の条件での計算を簡便にこなすためには、比較的短時間で計算が終了する必要があります。計算結果を数値の羅列ではなく、可視化する機能や簡単な結果分析機能も必要でしょう。
従来のモデルは、基本的に研究者やコンサルタント会社が使うものでしたので、このような機能はありませんでした。
 

リスク評価ツールとしてのモデルの開発

私がADMERの開発を始めた当時のわが国では、環境汚染物質排出移動登録(PRTR)制度が開始(2003年に第1回目公表)され、様々な化学物質の排出量に関する情報は整備されていく見込みでしたが、得られた排出量データから曝露やリスクを定量的に評価できるようなツールは皆無に等しい状況でした。
しかし、我々はナショナルプロジェクト※として、化学物質のリスクを評価する手法を開発して実際に多くの物質を評価していかなければなりませんので、モデルを使うことは必然でした。したがって、我々自身がリスク評価を行うと同時に、リスク評価ツールとしてのモデルの開発についても行いました。
 
※ NEDO受託研究「リスク評価、リスク評価手法の開発及び管理対策のリスク削減効果分析」
 
次回:6月1日更新予定