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リスクに加えて、ベネフィットも評価しよう

メンバー 岸本 充生

「リスク」と「ベネフィット」は対で用いられることが多い。しかし、リスクは、確率と重大さの積として以前から定義されてきたのに対して、ベネフィットはまるで確定的なものであるかのように扱われてきた。というよりは、これまであまり深く検討されてこなかったと言ったほうが適切だろう。本来は、ベネフィットもリスクと同様に、確定的なものではなく、「確率」と、それが実現した場合に「得られるもの」の積として表現されるべきである。この「得られるもの」の英語表現はとりあえず”gain”とした。

リスク(risk)=確率(probability)×重大さ(severity)
ベネフィット(benefit)=確率(probability)×得られるもの(gain)

先日、欧州食品安全機関(EFSA)から、「食品のヒト健康リスクベネフィット評価についてのガイダンス」がリリースされた。そこでは、ベネフィットは「物質への曝露によって、生命体、システム(※将来世代を含む概念)、(サブ)集団において、プラスの健康影響の生じる確率、および/あるいは、健康悪影響が削減する確率」と定義されている。下図は、食品のリスクベネフィット評価のパラダイムを描いたものだ。食品は直接摂取するものであるので、「曝露評価」がリスク側とベネフィット側の間で共通となっていることが特徴である。リスクとベネフィットは、質調整生存年数(QALY)や障害調整生存年数(DALY)などを用いてキャラクタライズすることが提案されている。

食品のリスクベネフィット評価のパラダイム

 ところが、日本の食品安全委員会がリスクベネフィット評価を行うことは当面、期待できそうにない。それは、食品安全委員会の行う、リスク評価(食品健康影響評価)は、食品安全基本法で、「人の健康に悪影響を及ぼすおそれがある生物学的、化学的若しくは物理的な要因又は状態であって、食品に含まれ、又は食品が置かれるおそれがあるものが当該食品が摂取されることにより人の健康に及ぼす影響についての評価」と定義されており、「悪影響」に限定されているからだ。リスク面だけで評価することは、必須元素(セレンや亜鉛)、自然起源の汚染物質を一定程度含んでいる場合(魚中の水銀やヒジキ中のヒ素)、保健機能食品や「いわゆる健康食品」といった対象については意思決定のための十分な情報足りえないだろう。さらに、これらの場合、リスク面だけについてコミュニケートしてもあまり意味がない。リスクコミュニケーションの問題については次回に続く。