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環境の読み書きそろばん

メンバー 東野 晴行

同じ土俵で議論することの重要性

環境問題では、企業や自治体などのいわゆる”加害者側”と特定地域の住民などの”被害者側”の意見が食い違うために、問題が泥沼化することがよくあります。このようなことになる原因の一つとして、議論の土台となっているデータが、特定の条件の下での観測データであるなど双方が十分納得できるものではないことがあげられます。環境リスクを正しく評価するには説得力のある正確なデータや解釈が必要です。しかしながら、前々回に紹介しましたPRTR制度が施行されるまでは一般市民が発生源に関する情報を手に入れることはほとんど不可能でしたし、排出量から環境濃度を求めそれに基づいてリスクを評価するための共通な土壌もありませんでした。その結果、住民側は企業や自治体などがコンサルタント業者などに実施させたアセスメントの結果(手順がすべて透明とは言えない)を唯一の資料として議論をせざるをえず、これではどうしても納得できないところが残ってしまうことになり、対立の要因となっていました。

使い勝手はとても重要です

化学物質のリスク評価を必要とし導入したいと考える人は多く、今後もますます増えているものと思われます。しかしながらこれを実行するには広く様々な分野の知識が必要であるため、何か一つでも難しいところがあればそれがハードルとなり先に進まなかったり、その部分を疎かにしたために結果が信用できないものになってしまったりするでしょう。
例えば、化学物質の曝露実態を調べるためには、環境中濃度を知る必要があります。十分な実測データがあり利用できるような場合はそれを使えばよいのですが、実測データがないか曝露を評価するのに十分な材料が入手できない場合は、排出量から濃度を推定する計算をしなければなりません。排出量からの濃度を計算するには、以前書きましたように単純な計算ではできないので、濃度推定モデルを用いて推定することが必要となるでしょう。
モデルのユーザーは、国や自治体の行政担当者や企業の環境対策担当者、リスク分析の研究者など様々な人が想定されますが、これらの人達はたいていの場合数値モデルの専門家ではありません。そのため、目的に合った適切なモデルが入手できなかったり、入手できてもそれが複雑で使いにくいものであったりすれば、そこで断念してしまうでしょう。その結果、必ずしも十分ではないモニタリングデータを用いたり、排出量を単純に面積で割った値でリスク評価を行ったりして、最終的に導き出されるリスク評価の結果が不正確なものになってしまう。このような事態は避けなければなりません。

環境の読み書きそろばん

このような事態を避けるためには、我々は何をすればよいのでしょうか。まず、データを扱うための共通の土壌が必要があります。もちろんこれは科学的に十分根拠のあるもので万人が納得できるものなければなりません。またこのような知識が広く浸透している必要もあり、浸透させる努力をする必要があります。そのためには研究で得られた知見を専門家だけでなく広く一般の人が使えるような「環境の読み書きそろばん」と言えるツールとして社会に提供する必要があり、このようなことにも力を注ぐべきでしょう。

モデルの公開と配布

RISSでは、環境中の媒体や用途によって複数のモデルを開発し公開しています。大気中の濃度や暴露人口を推定できるAIST-ADMER、河川中の濃度を推定するモデルAIST-SHANEL、東京湾など日本の主要な内湾における化学物質の濃度解析と生物に対するリスク評価ができるAIST-RAM、様々な曝露経路に基づく化学物質の曝露とリスクを簡便に評価できるツールRisk Leaning等です。これらのモデルは誰もが使えるソフトウェアとして、言うならば「環境の読み書きそろばん」となるように開発を行っており、基本的に無償で公開しています。RISSのWEBサイトから誰でもダウンロードやCD-ROMで入手することができるので、皆様も是非使ってみてください。

次回:8月1日更新予定