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ADMER-PRO

メンバー 非公開: 東野 晴行

次世代版のADMER

 ADMERの後継となる次世代型の大気モデルの開発を進めてきたが、ようやく皆様にお披露目する日が来そうである。このモデルは環境暴露モデリンググループの井上和也が中心となって開発した。モデルが新しいだけでなく担当者のほうも次世代になった。この新しいモデルには「ADMER-PRO」と名付けた。名前に“PRO”とついているように、従来のADMERがターゲットとしているユーザーよりも少し専門知識を持った方々を対象としたソフトウェアである。名前にADMERと冠しているが、このモデルはADMERの改良版ではない。まったく新しく設計されたモデルである。当初は、ADMERとつかない全く新しい名前にするつもりで名前の候補*まで考えていたが、色々な人に意見を聞くとADMERなんとかのほうがわかりやすいという意見が大半で、井上自身もそうしたいということだったので、「ADMER-PRO」と決まった。

*幻の名前:Atmospheric Chemical Transport Model for Exposure and Risk Assessment(略称をACTOR、もしくはACTRA)。“ACTORが演じる次世代の暴露評価”をキャッチフレーズにと思っていたのだが、あえなく却下された。名前の決定権も当然のごとく次世代に移った。

ADMER-PROのすごいところ

 ADMER-PROのもっとも大きな特徴は、光化学反応モデルを内蔵したことにより、オゾンやアルデヒド類のように大気中で二次生成する汚染物質の評価ができるようになったことである。アセスメント等で使われてきた従来のモデル(ADMER, METI-LIS, ISC等)では、オゾンのような物質の評価はできなかった。もっとも、このように書くと、単にADMERに光化学を入れればよいと思われるだろうが、それは技術的に不可能である。少しテクニカルな話になるが、ADMERのようなモデルは、プリューム・パフという解析解型の拡散スキームを採用している。このような解析解型のモデルには、構造上の制約から単純な化学反応しか入れ込めない。しかし、オゾンのような物質の生成には、大気中の非常に多くの物質と反応が関係しており、単純な化学反応では表現できない。ADMER-PROに内蔵している反応モデルは、40種類以上の化学物質の100以上の化学反応式を同時に解く。このような反応を大気拡散と同時に解くには、解析解型のモデルでは対応できず、気象モデルを内蔵した時間積分型(オイラー型)のグリッドモデルを新たに開発する必要があった。ADMER-PROはこれをパソコンレベルで実現した。

ADMER-PROにできること

 光化学スモッグの物質は光化学オキシダントであり、その大部分はオゾンであるが、これは人間の活動によって排出されたVOCsとNOxが、大気環境中で紫外線を受けて二次生成することによって発生する。したがって、光化学スモッグを減らす(つまりオゾンの濃度を下げる)には、オゾンそのものの排出量ではなく、VOCsとNOxの排出を減らす必要がある。
 ADMER-PROには、VOCsやNOx、COなど光化学スモッグの発生に関係する様々な物質の排出量を内蔵し、各排出カテゴリー(各種産業、移動発生源、家庭等)の排出の変化率(削減率)を設定すれば、排出物質の濃度だけでなく、オゾン等の二次生成物質の濃度のどのように変化するのかを推定することができる。削減率は、排出カテゴリー別だけでなく、地域別にも設定できるような構造になっている。
 その他にも、気象パターンの解析を事前に行うことにより、長期間の平均濃度の推定を短時間でできるようにしたこと、高濃度となる気象パターンを特定して濃度の時間変動を解析することにより、注意報発令日数(オゾン濃度が1時間値で120ppbを超える日数)の推定ができることなど、ここにすべてを書くことはできないが、今までのモデルにはない様々な機能がある。

ADMER-PRO(光化学反応を導入した大気モデル)

ADMER-PRO(光化学反応を導入した大気モデル)

産総研オープンラボで見ることができます

 2010年10月14日(木)と15日(金)の両日に開催される産総研オープンラボに出展します。ADMER-PROを外部にご紹介するのはこれが初めてです。
 オープンラボとは、企業の経営層、研究者・技術者、大学・公的研究機関などの方々を対象としたイベントです。事前に登録が必要ですが、特段の参加資格などがあるわけではなく、誰でも登録をすれば参加できます。申し込みの準備がまだできていないようですが、昨年の様子などを以下のウェブサイトで見ることができます。

 http://www.aist.go.jp/aist_j/openlab/2010/au0511.html

 当日は、ADMER-PRO以外にも、全国109の1級水系に対応したAIST-SHANELの最新版や、内湾の水生生物に対するリスクを評価できるAIST-RAMの最新版、さらに開発中の室内暴露評価ツールについてもご紹介します。ぜひご参加ください。

【追記 2010/08/04】ADMER-PROの開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト「化学物質の最適管理をめざすリスクトレードオフ解析手法の開発」の一環として実施しました。