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地球温暖化のリスク管理 - 緩和策だけでは危険だ –

メンバー 東野 晴行
ご挨拶が遅れましたが、東野は、去る5月1日から1年間の予定で、経済産業省 産業技術環境局 環境政策課に出向しております。環境政策課では、課長補佐として、地球環境対策室と地球環境技術室を担当し、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)及び二酸化炭素回収・貯留(CCS)関連の業務に携わっております。

短い期間ではございますが、行政の現場と国際交渉の現場を体験させていただいております。地球温暖化対策という国の最重要政策の一つに携わることになりましたが、専門分野の大気科学とリスク評価の知識を生かすことができればと考えております。

今回のコラムは、僭越ながら、地球温暖化の研究では全くの素人の私が、リスク管理の観点から少し考えたことを書かせていただこうかと思います。

リスク問題としての地球温暖化

 地球温暖化問題は、昨今、世界中でこれだけ騒がれていることを考えると、人類にとって大きなリスクの一つであろうことは間違いないでしょう。しかしながら、世の中には温暖化以外にも地震や事故など数多くのリスクが存在します。その中には地球温暖化の緩和策と密接に関わっているものやトレードオフの関係にあるものもあります。

地球温暖化による影響は、人為的な介入(農業による森林破壊、地下水の工業利用による地盤沈下、生活排水や工事によるサンゴ礁の破壊など)や自然変動影響(小氷期などの気候変化や地震等による実質的な海面上昇)と比較して、しばしば過大に評価されがちです。しかし、少なくても我が国においては、人為的な介入や自然変動影響が、気候変動よりも生じる確率や被害が大きいと考えられます。我々は人為的なリスクや自然変動影響によるリスク対しても十分な対応ができているとは言えません。

温暖化による影響の予測にはかなりの不確実性を伴います。例えば、温室効果ガスを産業革命前から倍増したとき地球の平均気温は何度上がるかという予測は、IPCCによれば2℃~4.5度と大きな幅があり、しかもこれが当たる確率は70%という注釈も付きます。

IPCCでは、これまで“2℃”“-80%”というような野心的な目標を掲げるというような議論が行われてきましたが、このような手法だけでは実行可能性が乏しく、目標達成の不確実性がきわめて大きく、リスク管理の枠組みとして適切とは言えません。

このような状況の下では、気候変動の緩和(排出削減)だけを考えていたのでは、リスク管理の観点から適切ではないと言えます。したがって、温暖化することを前提にして適応策を考えることや、気候変動を積極的に止める行動についても考えておく必要があるのではないでしょうか。

地球温暖化への適応策

 地球温暖化が人類に与える影響については、因果関係が明確に証明されていないものも多いのですが、例えば、海面上昇が起こるというのであれば、防波堤を建設する、高さを上げるという方法があります。温度上昇によって農作物の収量が減るというのであれば、品種改良によって収量を保つという策もあります。新たな病気が流行るというのなら予防や治療のための新薬を開発すればよいでしょう。

ところで、これまでの人類の歴史を振り返ってみると、かなり昔から、森林破壊、農業の拡大、海岸地形の改変など、自然に対する人為的改変を行ってきています。さらに、近年では宅地開発やコンクリード護岸などの形で改変は加速化しています。私の住んでいる筑波研究学園都市は、ほんの40年前はほとんどが森林か原野でした。また、地震、津波、火山噴火、洪水などの活発な自然活動があり、人類はこれらに翻弄されつつこれまで適応してきた歴史があります。東日本大震災では地震による地盤沈下によって東京23区に匹敵する面積が陸から海になったことは記憶に新しいでしょう。

人類のこのような歴史を考えると、地球温暖化によるリスクは、人為的改変や自然変動と比べて相対的に大きいものではなく、これまでの防災や自然保護活動の延長線上に位置づけて適応していくことができるのではないかとも考えられます。温暖化への適応のために新たな技術開発などしなくても、今までの技術や対策で十分カバーできるという考え方です。少なくても日本などの先進国においてはこのような考え方ができるのではないでしょうか。

ジオ・エンジニアリング

 日本語では地球工学、気象工学、気候工学とも言われており(日本語訳はまだ決まっていないようです)、「人為的な気候変動の対策として行う意図的な惑星環境の大規模改変」です。具体的な技術としては、太陽放射管理(SRM)と二酸化炭素除去(CDR)に大別され、前者は成層圏エアロゾル注入による地球の冷却、低層雲アルベド増加等があり、後者は海洋鉄散布、CO2直接空気回収等の技術があります。地球や海洋に二酸化炭素を貯蔵する技術であるCCSはジオ・エンジニアリングの範疇には入れない場合が多いようです。

温室効果ガス排出削減がなかなか進まない中、地球温暖化が危険な水準に達してしまうリスクを踏まえて、最近、ジオ・エンジニアリングは欧米を中心に注目を浴びており、IPCC第5次評価報告書でもレビューの対象となっています。

緩和策だけでは政策的に操作できる範囲が狭いと考えられることから、リスク管理として、ジオ・エンジニアリングが緩和に比べて相対的に重要性が増してくる可能性があります。しかしながら、このような劇薬を使用してまで温暖化を防止しなければならないほど緊急性があるのかということに関しては、当然、議論の余地があります。

参考文献

 ここでご紹介した内容に関しては、私の古くからの知人でIPCC第5次評価報告書の統括代表執筆者(CLA)に選ばれた(財)電力中央研究所の杉山大志氏の最新の論考を参考にさせていただきました。さらに詳細な内容を知りたい方は、下記の文献をご参照いただければと思います。

杉山大志 (2011a) 地球温暖化のリスク管理、(財)電力中央研究所社会経済研究所ディスカッションペーパー

本文はこちらからDLできます→ http://www.climatepolicy.jp/thesis/pdf/10016dp.pdf

杉山大志(2011b) 地球温暖化への日本の適応戦略、(財)電力中央研究所社会経済研究所ディスカッションペーパー

本文はこちらからDLできます→ http://www.climatepolicy.jp/thesis/pdf/10018dp.pdf

杉山大志(2010) 地球温暖化研究の到達点と今後:「地球温暖化の環境考古学」の提案、(財)電力中央研究所社会経済研究所ディスカッションペーパー

本文はこちらからDLできます→ http://www.climatepolicy.jp/thesis/pdf/10009dp.pdf