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あらまほしき研究者~第6話 親と自然への感謝

メンバー 松永 猛裕
 前話に書いたが、両親へのわだかまりは今もある。しかし、私の手先が器用であり、我慢強い性格なのは子供の頃の環境によるところが大きい。また、良い点をもう一つ挙げると、私をグルメな人間に育ててくれたのは間違いなく両親だ。今となっては結果オーライであり、むしろ感謝すべきだろう。「はて、あんた貧乏だったんじゃないの?」と言われるかもしれない。確かにカネはなかったが、浜松の自然は気前よく高級食材を与えてくれた。今回はよだれの出そうな話をさせて頂く。

まずは浜名湖の海産物について。浜名湖は汽水湖であり波が静かで砂浜がきれいなところだった。浅瀬で手に触れるものはほとんどアサリかハマグリ。石とかゴミがないのだ。バケツ一杯はすぐに採れる。たまにチクリという感触がある。クルマエビだ。逃げたところを確認して、慎重に捕まえる。その場でカラをむいて海水で洗って食べる。甘みがあって最高の味だ。魚釣りもたくさんやった。ハゼ、カレイ、アイナメなど良く釣れた。淡水に近いところではウナギが釣れる。もちろん、天然物だ。母が器用にさばいて蒲焼きにしてくれた。養鰻が盛んな浜松では、台風の時に大量に養殖ウナギが逃げ出すことがある。どこから逃げ出したかなんてわからないから捕っても怒られない。子供でも味の差を歴然と感じ、養殖物は脂っこくて締まりがなくまずいと思った。

夜の海はとても魅力的かつ神秘的だった。水中に手を入れてかき混ぜるとある種のプランクトンが発光して一面が光る。多くの魚が浅瀬で眠り、それを狙って夜行性の生物が活動する。眠っている魚は釣るよりも簡単に捕れる。ワタリガニは日中、砂の中に潜っているが夜は活発に動く。Swimming Crabの名前の通り、軽やかに横に泳ぐ。一晩で10匹以上は捕れた。ゆでで食べるととても美味しい。まれにドウマンガニ(現在ではエガニと呼ばれているらしい)という大型のカニも捕れた。至福の美味だった!

浜松は温暖なところなので、冬でも海に入ることができた。浜名湖は海苔の産地でも有名だ。岩場に行けば天然の海苔が採れた。香りが良くて絶品なのだが、更に絶品なのは海苔がある場所の牡蠣だ。普通の牡蠣と違って、海苔の香りがする!

野山も食材豊富だった。「第2話 生きる力」でも書かせて頂いたが、私は野山の食べられるものに詳しい。それは遊びではなく、本当に生きるためだったからである。自然薯(山芋)は最高の味だった。「シイの実」なんていう通な木の実も懐かしい。加えて父の友人が猟をしていたので、すごいものを食べることができた。鹿、イノシシ、野ウサギ(Aさん、ごめん!)、スズメなど。

これらの話は40年ほど前のことだ。当時は漁業権とか密漁なんてせこいことを言われることはなかった。今、思うと、わずか40年で自然環境は大きく破壊されてしまった!海に行ってもエビやカニが豊富に捕れることはない。釣りをしても魚よりも竿の方が多いのでは?という現状である。スーパーでは採れたて新鮮な天然食材などは望めない。一方、困ったことに子供の頃の舌の記憶が鮮明に残っている!満足な味を求めようとすると、高いカネを払ってネットで注文するしかない。幸か不幸か、いろいろなものが養殖できるようになってきた。持続的発展可能という点では喜ばしい。しかし、失われた自然の修復も大事に考えたい。自然の恩恵と食物に対する感謝を忘れないために。

次回:11月1日更新予定