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ナノテクノロジーや工業ナノ材料の安全問題について何をどう伝えるか

メンバー 五十嵐 卓也

はじめに

民主党政権下の2010年6月19日に科学技術政策担当大臣及び総合科学技術会議有識者議員が取りまとめた「『国民との科学・技術対話』の推進について(基本的取組方針)」は、研究活動の内容や成果を社会・国民に対して分かりやすく説明する、未来への希望を抱かせる心の通った双方向コミュニケーション活動を積極的に推進する必要があるとの認識を示した上で、関係府省・配分機関に次の取組を求めました。
 ①1件当たり年間3千万円以上の公的研究費(競争的資金又はプロジェクト研究資金)の配分を受ける研究者等に対して、「国民との科学・技術対話」に積極的に取り組むよう公募要項等に記載する。
 ②配分する直接経費の一部を、「国民との科学・技術対話」に充当できる仕組みの導入を進める。
 ③「国民との科学・技術対話」については、中間評価、事後評価の対象とする。ただし、実施に当たっては、満足度、難易度についてアンケート調査を行うことを記載し、質の高い活動を行うことができたかについて確認する。また、3千万円以下の公的研究費の配分を受けた研究者等が「国民との科学・技術対話」を実施した場合は、プラスの評価とする。
筆者らが従事している工業ナノ材料の安全問題に関する研究開発プロジェクトも、上記取組方針に基づいて関係府省・配分機関が定めた評価基準に従って、「国民との科学・技術対話」の実施について評価されることになります。ナノテクノロジーや工業ナノ材料は、広範な科学技術の融合の成果であり、また、その安全問題は、世界的な化学物質管理の枠組みの中で取り組まれています。したがって、このテーマで「国民との科学・技術対話」を実施しようとすると、ある程度の基礎知識がある人々(例えば、企業の研究者)を想定した長々とした講義形式のセミナーになりがちです。「未来への希望を抱かせる心の通った双方向コミュニケーション活動」と言われても、実のところ、何をどう伝えたらよいのか、途方に暮れてしまいます。

コミュニケーション・ツールとしてのビデオ

 ナノテクノロジーを巡る問題について、多くのビデオがインターネット(YouTube等)で公開されています。やはり、ナノテクノロジーの特定の応用分野に焦点を当てたものや専門家向けのものが大多数です。特に、講義や講演形式のものが多く見られます。このコラムでは、ナノテクノロジーや工業ナノ材料の安全問題についてのコミュニケーション・ツールの例として、2012年以降に公開された、中学生・高校生でも興味をもてそうな比較的短いビデオをいくつか紹介し、国民に何をどう伝えるべきか、読者の方々と共に考えるヒントを提供したいと思います。
ピックアップしたビデオは、以下のとおりです。結果的に、全て北米及びオーストラリアで作成された英語によるもので、なぜか、日本や欧州で作成されたものはピックアップできませんでした。
 ①Nano Careers 長さ3分30秒
 ②Do You Know What Nano Means? 長さ3分29秒
 ③Ninjas vs Superbugs: Adventures in Nanomedicine 長さ2分30秒
 ④Nano-technology questions spread sunscreen concern 長さ6分49秒
 ⑤Manufactured Nanomaterials: Health, Safety and the Environment 長さ4分13秒
 ⑥Five things worth knowing about nanoparticles and sunscreens 長さ4分14秒

①Nano Careers 長さ3分30秒

作成者MindFuel Canada(非営利団体) 公開日2013年1月31日

http://www.wonderville.ca/asset/nano-careers

 MindFuel Canadaが提供する科学学習リソースwww.wonderville.caに収録された子供向けの職業選択情報ビデオです。グラフィックが秀逸です。ナノサイエンティスとナノテクノロジストの役割の違いから説明し、多くの応用分野での可能性について触れ「限界はあなたの想像力」という決めセリフで終わります。ただし、ナノテクノロジーへの懸念については、一切触れていません。

②Do You Know What Nano Means? 長さ3分29秒

作成者MindFuel Canada(非営利団体) 公開日2013年1月31日

 ①の同じ作成者によって同時期に公開された、同タッチのビデオです。これが前編、①が後編という関係なのかもしれません。ナノスケールまで縮むと突然真っ暗になり、「あなたは可視光の波長より小さくなったので、実際のところ、人から見えません。説明のために、明かりを点けましょう」と語ります。

③Ninjas vs Superbugs: Adventures in Nanomedicine 長さ2分30秒

作成者IBM Research 公開日2013年12月8日

インフォグラフィック http://www.research.ibm.com/featured/ninjas/
 凶悪なバイ菌(多剤耐性菌)を忍者ポリマー(ナノスケールの抗菌性ポリマー)が退治するという、勧善懲悪ストーリーのビデオです。戦い終えて、「忍者は生分解し消え去り、幸せで健康な細胞たちは大喜びです」。「ナノ」の詳細は不明ですが、別途公表のニュースリリースから調べると、研究成果は、2013年12月9日に「Supramolecular high-aspect ratio assemblies with strong antifungal activity」と題してNature Communicationsに掲載されたことが分かります。ニュースリリースでは、このビデオを制作した背景や過程を説明したビデオも掲載しています。インフォグラフィックでは、将来、この抗菌性ポリマーが病院内のドアノブからカテーテルにまで使われることを期待すると述べています。しかし、そうした抗菌材料の多用が耐性菌を生むことにつながるのではないか、という懸念が特に欧州で根強いのも事実です。

④Nano-technology questions spread sunscreen concern 長さ6分49秒

作成者Australian Broadcasting Corporation 公開日2012年7月24日
  オーストラリア放送協会の朝7時半の報道番組です。扱っているのは、非ナノと表示され、環境団体フレンド・オブ・アース作成の「安全なサンスクリーン・ガイド」にも掲載されていたサンスクリーン(日焼け止めクリーム)に酸化亜鉛ナノ粒子が含まれていたことについて、企業側は、最終製品中の粒子は凝集しており、そのサイズはナノスケールではない、よって不正表示ではないと主張した事件です。対立する主張を淡々と伝えており、好感がもてます。粒子径計測の技術的困難さにも触れ、最後に、「ナノ・サンスクリーンは、2015年までに欧州の新規制に沿って表示されなくてはならない」いうニュージーランド規制当局の説明を紹介しています。皮膚がん予防のため、サンスクリーンが生活に必須という国情がうかがえます。

⑤Manufactured Nanomaterials: Health, Safety and the Environment 長さ4分13秒

作成者The Royal Institute of Australia on (http://riaus.org.au/) 公開日2013年6月16日

ナノ懸念の立場から作成されたこのビデオは、例として、サンスクリーンの酸化亜鉛ナノ粒子や繊維製品の抗菌加工のナノ銀に対する懸念を紹介し、人間活動から非意図的に生成される気中粒子による健康リスクについても併せて説明し、最後に「リスクとベネフィット」について簡単に触れています。ビデオの最後の方(3:33~)でナノテクのリスクとベネフィットの両方を勘案すべきと言っています。そこで流れる映像は、ナノテクの環境・エネルギー分野での応用例に限られ、やや狭い印象を与えています。チープな感じのグラフィックですが、テンポは良く、内容は公平で、最後までついていけます。

⑥Five things worth knowing about nanoparticles and sunscreens 長さ4分14秒

作成者Risk Bites 公開日2014年6月15日

  アンドリュー・メイナード博士らによるRisk Bitesシリーズのうち、ナノリスクに関する最新ビデオ。消費者になじみのあるサンスクリーンを取り上げ、含まれる二酸化チタン・ナノ粒子について「知っておくべき五つのこと」というまとめ方で、軽妙な語り口に魅了されます。しかし、手書きの図に添えられた手書き文字は、ノン・ネイティブには短時間での読み取りが難しい場合があります。
 2014年2月18日には、同じく消費者になじみがある、抗菌剤として用いられるナノ銀について「七つの驚くべき事実」というまとめ方をしたビデオを公開しています。

Risk Bitesシリーズには、2013年6月24日~8月6日に公開された7巻26分37秒にわたる「Are Advanced Materials Safe?」という見ごたえのある大作があります。「Advanced Materials」とは、ナノスケールにこだわらないでリスク評価に取り組むべきとするメイナード博士の主張によるもので、オバマ政権の考え方とも合致しています。

  A Brief History of Materials – Part 1 of 7 of Advanced Materials Safe?
  Designer Materials and 20th Century Innovation – Part 2 of 7 on Advanced Materials Safety
   Advanced Designer Materials – Part 3 of 7 on Advanced Materials Safety
   Are advanced materials safe? Part 4 of 7 on advanced material safety.
   What Makes an Advanced Material Harmful? Part 5 of 7 on Advanced Materials
   Do novel materials present novel risks? Part 6 of 7 on Advanced Materials
   Creating advanced materials that are safe by design – part 7 of 7 on Advanced Materials
メイナード博士がRisk Bitesシリーズに取り組む理由を語っているビデオもあります。

 

真面目版 University of Michigan professor feeds hunger for online education with bite- size science

 

冗談交じり版  Behind the Whiteboard: The Risk Bites Story