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消費者製品からの暴露を評価するツールの開発 – 製品からの吸入、経皮、経口暴露を推定 –

メンバー 東野 晴行

はじめに

 化学物質のヒトへの暴露には、大気や水など環境を経由する暴露や、化学物質を取扱う工場などでの作業環境暴露のほかに、日常生活で身近に使用する物(消費者製品)からの暴露があります。

日本の化学物質リスク管理の最も代表的な法律は、このコラムの読者の皆様はよくご存じの「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)です。化審法は平成21年度の改正で暴露を考慮したリスクベースの管理に大きく変わりましたが、環境経由の暴露のみが対象となっています。

作業環境における暴露は労働安全衛生法、製品からの直接暴露は家庭用品規制法で審査、規制されています。しかし、これらの法律は、新規化学物質を事前に審査するものではないことから、製造事業者などに対して、製品が販売される前にリスクを低減する対策を指示できる仕組みにはなっていません。

一方、海外に目を向けると、欧州ではREACH、米国ではTSCAにより、労働者、消費者、及び環境への影響の評価を統合して行っており、一元的な評価体制が構築されています。したがって、日本においても、欧米のような統合的な評価体制が必要ではないかと議論されています。大気や水などの環境を経由する暴露については、欧州JRCのEUSESや、日本では我々産総研のADMERやSHANELなど、行政機関や企業でのリスク評価に使うことができるツールが既に開発され公開されています。

消費者製品からの暴露を対象としたツールについては、欧州ではConsExpo、米国ではE-Fast等が行政機関や事業者が実務に使用できるツールとして提供されています。しかしながら、日本ではGHS表示のためのツール(Chem-NITE)以外には現在のところ提供されておらず、日本の実情にあった暴露評価とリスク評価を行うことができるツールの開発が課題となっています。

消費者製品暴露評価ツールの開発

 このような背景から、私たちは、消費者製品暴露評価ツールの開発を平成24年度から本格的に開始しました。現在開発を進めているツールは、日本の住宅の中に存在する消費者製品に含まれる化学物質のヒトへの暴露を推定します。暴露経路は、室内空気質を介した吸入暴露、製品との直接接触による経皮暴露、直接接触及びハウスダスト経由による経口暴露を対象としています。

ユーザーは、行政執行機関や消費者製品等を扱う企業・業界団体に加えて、製品を購入・使用する一般消費者にも使っていただけるように考えています。前者の方々には化学物質の消費者製品経由の暴露の評価、各種規制法などの将来を見据えた評価ツールとして、後者の方々には現状の暴露状況の把握、製品購入前の評価などで使用していただくことを想定しています。

 私たちのツールの優れた特徴の一つは、データベース内蔵型のソフトウェアであることです。家屋の種類、面積など住宅に関する基礎情報、体重や呼吸量など人間に関する基礎情報に関してわが国の実態に基づいたデータセットを内蔵します。化学物質や製品に関する情報については、いくつかの代表的な物質、製品、用途に関するデフォルトのデータセットを用意する予定ですが、ユーザーが新たなデータを容易に追加できるようなメンテナンス性に優れた仕組みを同時に開発する予定です。

これまでの成果と今後の予定

 消費者製品からの暴露については、私たちはこれまで、室内の吸入暴露の研究を先行して進めてきました。平成24年度は、室内暴露評価ツール(iAIR)をシックハウス症候群の評価ができるようにするために、時間的精緻化(非定常モデルの開発)*1に取り組みました。非定常モデルを搭載した新しいiAIRは、近いうちに皆様に使っていただけるように公開する予定です。

平成25年度からは、室内暴露評価手法の精緻化*2,3を進めるのと同時に、経皮・経口暴露についても評価手法の開発*2に取り組んでいます。私たちの現在の計画では、吸入、経皮、経口の3つの経路からの暴露を統合的に推定できるツールは、平成28年頃に完成する見込みです。

【謝辞】本研究は、経済産業省からの受託研究「室内環境における消費者製品に含まれる化学物質の管理手法の開発(H24)*1」、「製品含有化学物質の経皮・経口及び吸入暴露に係る調査(H25)*2」および厚生労働科学研究費化学物質リスク研究事業 ( H25–化学一般–006)*3の一環として実施しています。

図.非定常モデルを搭載した新しいiAIRの概要

図.非定常モデルを搭載した新しいiAIRの概要