グループ長 | 内藤 航 |
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メンバー
化学物質、ナノ材料および放射性物質のリスクに関連する適切な評価・管理手法の開発とその適用に関する研究を推進することで、ミッションである環境・安全技術「リスク評価からリスク・トレードオフ、リスクコミュニケーションへ」の実現に貢献します。
2019年の主な成果
内藤 航 | 避難指示解除地域における被ばく線量の測定と評価 |
加茂 将史 | 種の感受性分布の信頼性評価 |
藤田 克英 | セルロースナノファイバーの吸入影響評価手法を開発 |
篠原 直秀 | フタル酸エステル類への経皮曝露量の把握 |
竹下 潤一 | 順序尺度に対する分散分析手法ORDANOVAの改良 |
岩崎 雄一 | 化学物質濃度が高い河川地点はどんな特徴があるのか?:水生生物保全の観点から |
眞野 浩行 | 国内河川の水質条件下での水生生物に対するニッケル有害性の推定 |
リスク評価戦略グループのメンバーと研究課題
メンバーは,研究員6名,テクニカルスタッフ9名です.
グループの主要な研究課題と担当は,次の通りです.その他,いくつかの個人研究があります.
- リスクトレードオフ解析(ヒト健康):蒲生,竹下
- リスクトレードオフ解析(生態リスク):林,内藤,加茂
- 工業ナノ粒子のリスク評価(ヒト健康):蒲生,藤田
- バイオマス利活用に伴う生態リスク評価 :林,内藤
リスク評価戦略とは?
リスク評価の戦略を考える出発点は、どのような目的で評価を行うのかということです。これは、対象によって当然違ってきます。例えば次のようなものが挙げられます。
スクリーニング:重要かもしれないリスクを拾い出す安全側(リスクを大きめに見る)評価
新規物質の評価:初期の意思決定,限られた情報での判断
順応的管理:リスク管理を試行しながらデータを取得して,管理方法の更新にフィードバック
リスク比較:二つの物質のリスクはどちらが大きいか。優先順位付け
費用効果分析:化学物質の便益とリスクの比較。対策費用と削減リスクの比較
いずれの場合でも、評価のあり方を考えるために共通することをあえて挙げるとすれば、単にリスクを小さくすることを追求するのではなく、化学物質のリスク、化学物質の便益、評価や管理のコストのバランスを考えて、適切な管理を行うということになるでしょう。
リスク評価のあり方(戦略)は、大きく二つの側面からとらえることが出来ます。一つは、リスク評価のためのデータの取り方です。リスク管理をするにあたり、どのようなデータをどのように取得していくべきかを考えるということです。
もう一つは、得られているデータの使い方です。使い方は,さらに,どのようにリスクを推定するか,という点と,どのような指標でリスクを表現するか,という点に分けることができます.
【データの取り方】
データは,やみくもに取ればよいというものではありません.目的に応じた費用効果的なデータの取得が求められます.課題に応じて,次のような観点から,データの取り方を検討しています.
評価のためのミニマム・データセット (ある管理の目的のための必要十分な情報)階層的アプローチ (スクリーニング試験→詳細な試験)(生産・使用量等に応じた試験の詳細さ)二軸アプローチ (代表的物質について詳細な試験+簡易な試験で幅広い物質に対応)順応的管理のためのモニタリング計画 (管理の試行の結果を効果的に把握する事後検証の枠組み)
【リスク推定の方法】
リスク推定の方法は,しばしば,用いるデータが限られている場合に必要となります.少ない情報からなるべく確かな推定を行うことが求められます.環境中濃度の予測モデルも,ある意味ではこのカテゴリーに入りますが,リスク評価戦略グループでは,主に,有害性(ヒト,生態)のための推論手法の開発を行っています.また,とくに限られた情報によるリスク推定は不確実です.評価の不確実性を前提としたリスク管理のため,不確実性を定量的に評価する方法も併せて開発しています.
【リスクの指標】
ヒト健康リスクの指標としては,従来,MOE(Margin of Exposure:無影響量の暴露量に対する比)や,ハザード比(暴露量の摂取許容量に対する比)が一般的でした.スクリーニングや新規物質の評価(初期の意思決定)のように,それらが有効に機能する場面も少なくありませんが,より踏み込んで,リスク比較や費用効果分析を行いたいといった目的においては不十分です.リスク評価戦略グループでは,損失余命や損失QALY(Quality Adjusted Life Years:質調整生存年数)の利用を検討しています.
また,生態リスクについては,従来,生物個体に対する影響に着目した評価であったものから,生態学的に意味がある指標,すなわち,個体群の存続に着目したリスク指標への移行を提唱しています.また,生態系において影響を受ける種の割合を定量化する「種の感受性分布」アプローチも検討しています.