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ポリシーステートメント2008

安全科学研究部門ポリシーステートメント 2008年

 


2008年4月29日
研究部門長 中西準子

 1.ユニット設立の意味とミッション

2008年4月1日に、産総研内に安全科学研究部門を設立しました。本研究部門が目指す「安全科学」は、巷間で広く使われている「安全」に留まるのではなく、「安全」と「持続可能性」を同時に求める科学です。地球環境問題が大きくなる中で、「安全」の社会的な意味を広げる、さらに言えば、書き換える必要があるという認識の下に、「安全科学研究部門」を設立しました。研究部門の英語名は、Research Institute of Science for Safety and Sustainability(略称RISS:リス)です。この英語名には、安全科学にかける思いを具体的に表現しました。

 08年3月末まで存在した3研究ユニット、爆発・安全研究コア、化学物質リスク管理研究センター、ライフサイクルアセスメント研究センターを統合し、他の研究ユニットからの新しい研究員を加え、さらに産総研内の他の評価部門との連携を視野に入れてこの研究部門を作りました。

1-1. 設立の意味(時代的背景)

製品の不備とそれによる事故や産業活動による大事故が続発し、安全問題についての国民の関心が高まっていることを背景として、第3期科学技術基本計画(平成18~22年度)の基本政策では、安全研究が重要な研究課題の一つとして位置づけられました。

 これまで、3研究ユニットが担ってきた評価技術および安全、リスクに関する評価結果とライフサイクルアセスメントのためのインベントリーについては、高い信頼性が寄せられ、しばしば国や自治体、産業界の意思決定の基礎となりました。このような確実なデータや評価結果を提出できる機関が非常に少ないこと、また、その必要性は日増しに大きくなっていることに鑑み、引き続き実証や調査での検証を支えにした信頼性の高い結果を提出し続けることが、上記政策要請に応えることであると考えています。

 しかし、今の時代は、個々の安全問題に真摯に取り組めばいいという状況にありません。安全問題、リスク問題の一方で地球環境問題、資源枯渇問題、つまり持続可能性問題が、特に深刻になっていますが、それらは互いにトレードオフの関係にあることが多いのです。つまり、我々は安全問題に取り組みながらも、同時に複数のトレードオフ問題をどのように解決すべきかという、困難な課題に直面しているのです。このような状況を考慮し、3研究ユニットが個々に研究を進めるだけでは問題の解決には到達できないものと考え、他の評価部門とも連携をとりながら統合して研究を進める決定をしました。

1-2.ミッション

(ミッション1)爆発・安全、化学物質リスク、ライフサイクル解析の分野で影響評価手法を開発し、同時に評価に不可欠となる信頼性の高い基盤データを収集し、これらを蓄積しつつ適切な解析を行うことにより、評価結果を公表します。

(ミッション2)同時に、それらの領域の融合化につとめ、融合的研究を行います。これらの融合研究の実施を通じて複数の要素のトレードオフ問題に取り組み、安全と持続性の実現を目指します。

(ミッション3)新技術の社会受容性、産業保安、環境分野でのガバナンス戦略などの分野で、理工学・社会科学・人文科学の境界を超えた、しかし現実的で政策提言につながる研究を行います。

(ミッション4)研究活動により蓄積されたデータ、開発した解析ツールなどを使い易いかたちで社会に提供します。

(ミッション5)評価結果の公表により、市民・地域・産業・行政、および国際機関などの合理的な意思決定・基準策定を助け、我が国の産業競争力の強化に貢献します。

1-3.産総研ミッションとの関係

 第2期中期計画の分野別研究戦略 環境・エネルギー分野 戦略目標1「予測、評価、保全技術の融合により、環境・安全対策の最適ソリューションを提供する」に該当する研究です。また、新規技術、とりわけエネルギー開発技術のインパクト評価の必要性が第2期中期計画の多くの箇所で指摘されていますが、それらも本研究部門の研究課題です。

 2010(平成22)年度から、産総研では第3期中期計画が開始されます。本研究部門の設置やその理念・ミッションは、第3期中期計画における産総研の位置づけを明確化し、その社会における役割を先取りするものです。

1-4.ミッションを達成するための中核的研究課題

以下を中核的研究課題と位置づけます。

(1) (ミッション1と5に関連して)従前行ってきた影響評価手法の開発、評価の実施の継続と進化、信頼性の高い評価結果の導出

(2) (ミッション2に関連して)トレードオフ問題への取り組み

(3) (ミッション3に関連して)新技術の評価・管理についての研究

(4) (ミッション4に関連して)ガバナンス戦略の研究

1-5.部門プレゼンス研究課題

 部門のプレゼンスを示す研究課題として、以下の課題を選び、3年間での成果を見えるようにする。本研究部門の得意技、融合研究の意味を明確にするという視点から、この研究課題を選んだ。年度毎に研究の達成状況の点検を行う。

(1) フィジカルハザード評価

 爆発安全における行政・社会の要請に応える研究を実施する。具体的には、地下式、トンネル式火薬庫等の改良型火薬類貯蔵施設の安全性評価、水素インフラに係る規制再点検及び標準化のための基盤研究、新型ロケットエンジンの爆発威力評価、原子力施設のテロ対策技術研究において、信頼性のある確実な保安データや保安技術基準・ガイドラインを提供する(主として爆発・安全コア)。

(2) 工業ナノ材料のリスク評価

 新規技術、新規物質の例として、ナノ材料を対象に、リスク評価を行い、管理のための方策を提示し、国際動向をリードする(主として旧リスク管理研究センター)。

(3) 鉛に関するサブスタンス・フロー・シミュレーターの構築

 有害性と資源性をもつ金属の最適管理をめざしたサブスタンス・フロー・シミュレーターを、鉛を例に取り上げて構築する。自然界が支配する地球レベルでの物質循環のみならず、廃棄物処理を含む産業活動による物質循環を統合させたシミュレータの構築を目指す。ひいては、このシミュレータを用いて、着目する物質の持つ特性を最大限に生かすための産業政策の評価や提案を試みる(旧3機関)。

(4) バイオマス利用リスク評価の研究

 バイオマスエネルギー開発及び利用に際し、エネルギー効率、二酸化炭素排出量、生態影響、健康影響、燃焼特性、燃焼危険性などの評価を行うと同時に、食糧との競合、エネルギーセキュリティーへの影響の研究を実施する(旧3機関)。

2.運営方針と体制について

2-1.基盤となった研究ユニットの文化の違いの克服と協力体制の構築

 基盤となった3研究ユニットの研究内容、文化、研究費の性質と規模が大きく異なるので、この統一はかなり難しい課題です。やたらと同じにすればいいわけではないが、一定の統一感がなければ、新しい組織とは言えないし、融合研究も進まない。一挙に統一することの弊害も認識しつつ、統一的な組織にするために、違いを含む統一ルール、共有できる文化を作りたい(ある種のglobalizationの課題と認識)。

2-2.研究組織の体制

 研究部門は、それぞれの専門を極め、若手研究者が育ち、さらに研究部門の理念や社会のニーズに応じてプロジェクトを遂行するための組織とします。そのために、研究グループは、専門領域、要素技術を基準に組織され、プロジェクトはグループ横断的に組織します。

 部門長・副部門長・コア代表、主幹研究員で経営会議を組織し、さらに、部門プレゼンス研究プロジェクトのプロジェクトリーダー(PL)及び部門主任研究員を加えた「企画会議」を組織します。経営会議と企画会議で議論を進めつつ、部門全体での研究の円滑な推進を図ります。

 尚、爆発安全研究分野の重要性、外部へのメッセージ性を意識して、「爆発安全研究コア」を組織しコア代表をおきます。また、外部へのデータ提供などのためのサービス部署を、副部門長の下におきます。

 現在、10の研究グループが作られており、グループ長はその運営の任を負います。グループ長は、任期制とします。

2-3.他ユニットとの協力について

 現在進めている研究プロジェクトの多くで、他ユニットとの共同研究が実施されています。また、いくつかの研究ユニットから共同研究の申し出があり、今後も連携して研究を進める努力をします。

 また、評価研究の重要性に鑑み、他研究部門の研究員の本研究部門への異動の勧誘もしたい。

他大学、他研究機関との共同研究も進めたい。

3.リスク管理に関する基本的考え方と具体的な取り組み

3-1.基本的考え方

 本研究部門の主たる構成要素となった3研究ユニットの性格が、リスク管理の面から見て、性質が異なることから、リスク管理問題への取り組みは難しい面がある。この点に注意したい。

 爆発安全コアでは、主に実験に伴う安全性(薬品の扱い、実験の進め方)の問題が最も大きなリスクと認識しています。コアについては、飯田コア代表の指導の下に厳格に進められるものと理解していますが、仕事が過重にならないか、施設に老朽化で問題が起きないかなどの点は、部門として考えていきます。

 研究部門全体で、信頼されるデータや評価結果の提出が求められていることから、情報の信頼性確保、その点検、さらには情報発信の際の注意と点検が必要と考えています。如何なる研究成果も、決められたルールの下でのチェックなしに発表することができないとうルールを徹底させます。そういうチェック体制を構築します。

 情報の発信と守秘義務との関係も、研究領域が広いことによる難しさがあると認識しています。自由の気風を誇る領域から、厳格なルールで進められる領域までを含んだ領域であるという認識の下にリスク管理を考えてゆきます。

4.コンプライアンスに関する考え方

 必要とされる倫理感、ルールなどが工技院時代のそれとは大きく異なること、したがって、従来通りに進めれば、重大なルール違反になるとの認識が欠如していることが、インコンプライアンス問題の根元と考えています。ルールが大きく変化しているのは、産総研の組織の性格の変化だけでなく、外側の社会の意識の変化が大きいということを認識しなければならないと思います。

 従来のしきたりの徹底的な見直しを進めたいと思います。と同時に、ルールが現状に合わず、研究を円滑に進めることのできない場合には、ルールの改善を求める動きを外部に対して行いたいと考えます。

従来のしきたりの徹底的な見直しを以下の分野で進めます。

(1) 研究費の使い方のルール

(2) プロジェクトへの参加と各自のeffortの管理

(3) 研究成果と知的財産権の問題

 さらに、本研究部門では、毎月の環境安全会議で、リスク問題も同時に取りあげますが、他研究機関、大学、行政機関等で起きたことが、本研究部門で起きる可能性がないのかの討論を、この中で実施したいと考えています。

5.成果の普及

 サービス部署を通して、成果の普及を行います。また、研究発表の機会を多くし、積極的に行政機関等に働きかけることで活用の道を広げます。コアのRISCADもその一つです。

6.個人評価の方針

6-1.短期評価

(1) 短期評価は、グループ長(GL)による評価と研究部門長による評価を考慮した総合評価とする。(GLによる評価は、年度はじめに出された目標の達成度を基に評価を行う)。部門長による評価は以下のような考え方で行う。

(2) 短期評価は、年度内に出された成果(evidence付き)を基に行う。

(3) 部門長は、年度初めに、以下の3項目について申請された各自のeffort(年間計画に書く)に応じた比率で評価を行う。

・基礎研究(主として論文等で評価)

・プロジェクトへの貢献、成果(evidenceが必要)

・社会への貢献(外部での活動)

(4) 短期評価の結果は業績手当の査定額に反映させる。

(5) 年度のはじめに、研究グループの研究計画が確定する前に、部門長(1人で対応)による個人面談を行います。

6-2.長期評価

(1) 長期評価は、これまでの実績に加え、マネージメント能力、指導者としての発展性などを加味して行います。

7.人材育成の取り組み

 2-1.に書いた通りです。