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ポリシーステートメント2009

安全科学研究部門ポリシーステートメント 2009年度

 


2009年4月14日
研究部門長 中西準子

1.ユニットのミッション

     -評価なくして安全なし-
                -評価なくして持続可能性社会なし-
                           -評価なくしてイノべーションなし-

1-1.評価を基礎にした意思決定を求めて

 安全科学研究部門は、08年4月1日に設立され、2年目を迎えました。
本研究部門は、安全・環境問題における評価学の道を切り開き、評価のための手法と基礎的データを提供し、ある場合には、評価そのものを行って社会の意思決定を助けることをミッションとしています。つまり、環境保全と安全を目的とした評価の専門研究部門です。

本研究部門が目指す「安全科学」は、巷間で広く使われている「安全」に留まるのではなく、「安全」と「持続可能性」を同時に求める科学です。地球環境問題が大きくなる中で、「安全」の社会的な意味を広げる、さらに言えば、書き換える必要があるという認識の下に、「安全科学研究部門」は設立されたのです。研究部門の英語名、Research Institute of Science for Safety and Sustainability(略称RISS:リス)は、安全科学研究部門にかける我々の思いをより具体的に表現しています。

1-2.3研究ユニット統合の意味(時代的背景)

 本研究部門は、3研究ユニットの統合を核にしてできました。3研究ユニットとは、化学物質リスク管理研究センター(CRM)、ライフサイクルアセスメント研究センター(LCA)、爆発安全研究センター(コア)です。これまで、爆発安全、環境リスク、ライフサイクル評価の分野で3研究ユニットがそれぞれ開発してきた評価技術、評価に必要なデータの収集と策定、及び評価結果については、高い信頼性が寄せられ、しばしば国や自治体、産業界の意思決定の基礎となりました。このような確実なデータや評価結果を提出できる機関が非常に少ないこと、また、その必要性は日増しに大きくなっていることに鑑み、引き続き実証や調査での検証を支えにした信頼性の高い結果を提出し続けることが、まずは、本研究部門に対する社会的要請であると考えています。
製品の不備とそれによる事故や産業活動による大事故が続発し、安全問題についての国民の関心が高まっていることを背景として、第3期科学技術基本計画(平成18~22年度)の基本政策では、安全研究が重要な研究課題の一つとして位置づけられました。
 しかし、今の時代は、個々の安全問題に真摯に取り組めばいいという状況にはありません。現在または近未来での安全問題の一方で地球環境問題、資源枯渇問題、つまり持続可能性問題が深刻になっています。しかも、これらの多様なリスクが相互にトレードオフの関係にあることが多いのです。つまり、我々は個々のリスクの評価、対策に取り組みながらも、同時に複数のリスクのトレードオフ問題をどのように解決していくべきかという、困難な課題に直面しているのです。このような状況を考慮し、3研究ユニットが個々に研究を進めるだけでは問題の解決には到達できないものと考え、他の評価部門とも連携をとりながら統合して研究を進める決定をしたのです。

1-3.ミッション

本研究部門のミッションは以下のとおりです。
(ミッション1)環境保全・安全のための評価手法を開発し、確かなデータを提示する。
 産業災害・環境リスク、ライフサイクル評価の分野で影響評価手法を開発し、同時に評価に不可欠となる信頼性の高い基盤データを収集し、これらを蓄積しつつ適切な解析を行うことにより、評価結果を公表する。
(ミッション2)融合研究とリスクトレードオフ解析の研究を進める。
 従来の3研究ユニットの枠に捕らわれることなく、領域融合的な課題に取り組む。安全性、環境リスク、持続可能性、経済的影響などの多様なリスクを評価し、複数の拮抗するリスク(リスクトレードオフ)の最適化を図るための評価の枠組、戦略論を発展させる。
(ミッション3)持続可能性社会構築に関する評価手法の確立し、普及を図るため研究を行う。
 気候変動、資源、生物多様性など、持続可能性社会構築のために必要となる評価技術の確立とその社会での活用方法について、実践的検討を行う。
(ミッション4)イノベーションを促進するためのリスク管理戦略を構築する。
 新技術の社会受容性、産業保安、環境分野でのガバナンス戦略などの分野で、理工学・社会科学・人文科学の境界を超えた、しかし現実的で政策提言につながる研究を行う。ひいてはイノベーションを促進し、産業の国際競争力の強化に貢献する。
(ミッション5)データや評価結果の発信と社会での活用の道筋をつける。
研究活動により蓄積されたデータ、開発した解析ツールなどを使い易いかたちで社会に提供し、評価結果の公表により、市民・地域・産業・行政、および国際機関などの合理的な意思決定・基準策定を助ける。

1-4.産総研ミッションとの関係

第2期中期計画の分野別研究戦略、環境・エネルギー分野、戦略目標1「予測、評価、保全技術の融合により、環境・安全対策の最適ソリューションを提供する」に該当する研究です。また、新規技術、とりわけエネルギー開発技術のインパクト評価の必要性が第2期中期計画の多くの箇所で指摘されていますが、それらも本研究部門の研究課題です。
2010(平成22)年度から、産総研では第3期中期計画が開始されます。本研究部門の設置やその理念・ミッションは、第3期中期計画における産総研の位置づけを明確化し、その社会における役割を先取りするものです。
 技術が優れていても、リスク評価なしには、新製品、新材料を市場に出すことができないことが、特にナノ材料の問題で顕在化してきました。産総研が一番の課題に掲げる、イノベーションのためにこそ、これらの評価研究は必要なのです。この視点が、産総研の第3期中期計画の中に反映されるように努力したいと思います。

1-5.部門プレゼンス研究課題

 部門のプレゼンスを示す研究課題として、以下の課題を選び、現在研究を進めています。3年間での成果を見えるようにすることを目標にしています。本研究部門の得意技、融合研究の意味を明確にするという視点から、この研究課題を選びました。年度毎に研究の達成状況の点検を行います。
 ①フィジカルハザード評価
 爆発安全における行政・社会の要請に応える研究を実施します。具体的には、地下式、トンネル式火薬庫等の改良型火薬類貯蔵施設の安全性評価、水素インフラに係る規制再点検及び標準化のための基盤研究、新型ロケットエンジンの爆発威力評価、原子力施設のテロ対策技術研究において、信頼性のある確実な保安データや保安技術基準・ガイドラインを提供します。
②工業ナノ材料のリスク評価
 新規技術、新規物質の例として、ナノ材料を対象に、リスク評価を行い、管理のための方策を提示し、国際動向をリードします。
③鉛に関するサブスタンス・フロー・シミュレーターの構築
 有害性と資源性をもつ金属の最適管理をめざしたサブスタンス・フロー・シミュレーターを、鉛を例に取り上げて構築します。自然界が支配する地球レベルでの物質循環のみならず、原料、製品、廃棄物の移動を含む産業活動による物質循環を統合させたシミュレータの構築を目指します。ひいては、このシミュレータを用いて、着目する物質の持つ特性を最大限に生かすための産業政策の評価や提案を試みます。
④バイオマス利用リスク評価の研究
 バイオマスエネルギー開発及び利用に際し、エネルギー効率、二酸化炭素排出量、生態影響、健康影響、燃焼特性、燃焼危険性などの評価を行うと同時に、食糧との競合、エネルギーセキュリティーへの影響の研究を実施します。

1-6.新しい課題

 代替フロン問題、カーボンフットプリント制度構築と実施のための研究が急を要する課題になっております。

2.運営方針と体制について

2-1.研究組織の体制

 昨年度のポリシーステートメントでは、「基盤となった研究ユニットの文化の違いの克服と協力体制の構築」を掲げました。平成20年度に、この課題はほぼ達成されたと思います。今や、新しい統一された研究部門の一員として、皆が活動しています。
 研究部門は、それぞれの専門を極め、若手研究者が育ち、さらに研究部門の理念や社会のニーズに応じてプロジェクトを遂行するための組織とします。そのために、研究グループは、専門領域、要素技術を基準に組織し、プロジェクトはグループ横断的に組織します。
 部門長・副部門長・コア代表、主幹研究員で経営会議を組織します。部門の運営は、経営会議と研究グループ長会議(GL会議)での討議を中心にして進めます。昨年度は経営会議とGL会議の間に、企画会議をおきましたが、廃止することにします。
 現在、10の研究グループが作られており、グループ長はグループ運営の任を負います。グループ長は、任期制とします。
 組織としてのリスク管理やコンプライアンスが重要な課題になっている現状に鑑み、研究部門の管理組織の重要なユニットとして班を作ります。基本的に研究Gと重なるように作り、すべての所属者は、必ず、どこかの班に属することとする。班員の意見をとりまとめ、GL会議に反映すると同時に、部門として遂行すべき事柄の伝達、執行の責任を負います。
 尚、爆発安全研究分野の重要性、外部へのメッセージ性を意識して、「爆発安全研究コア」を組織しコア代表をおきます。

2-2.いくつかの見直しの検討

 平成20年度の1年間の経験の中で、浮き彫りになってきた問題もいくつかあります。それは、経済環境の急激な変化のなかで、当初計画のままで目標を達成できるのかという問題です。経済環境の急激な変化からつきつけられた問題は、決して一時的なものではなく、将来も続く問題であると捉え、今年度内に、それぞれに対し、内部、外部の討論を経て、研究部門内での答を出したいと思います。

2-3.他ユニットとの協力について

 現在進めている研究プロジェクトの多くで、他ユニットとの共同研究が実施されています。また、いくつかの研究ユニットから共同研究の申し出があり、今後も連携して研究を進める努力をします。
 また、評価研究の重要性に鑑み、他研究部門の研究員の本研究部門への異動の勧誘もします。
 他大学、他研究機関、民間企業との共同研究も進めます。
 NEDO プロジェクトで進めております「ナノ粒子の特性評価手法の研究開発」では、産総研内の5研究ユニット、5大学との共同研究を進めてきましたが、今年度の融合重点「ナノテクリスク」研究も、3研究ユニットとの共同で進めます。

2-4.国際的な共同研究

 ナノリスク研究では、引き続き、OECDでの活動に積極的に参加し、また、米国のNIOSHとは密接に意見交換しつつ研究を進めます。また、バイオマス研究では、引き続き、タイを中心に東アジアとの連携を深めます(タイとの間には、人材交流、共同研究、技術指導などを行っています)。また、国連危険物輸送専門家委員会などで積極的に情報発信します。

3.リスク管理に関する基本的考え方と具体的な取り組み

3-1.基本的考え方

 本研究部門の主たる構成要素となった3研究ユニットの性格が、リスク管理の面から見て、性質が異なることから、リスク管理問題への取り組みは難しい面がありますので、この点に注意しつつ、以下のリスク管理に取り組みます。
1)研究員の安全が脅かされるリスク
 爆発安全コアでは、実験に伴う安全性(薬品の扱い、実験の進め方)の問題が最も大きなリスクと認識しています。昨年度、コアの安全管理問題につきましては、徹底的な対策がとられました。また、老朽化で危険度の増していた中央第5事業所の爆発ピットの大規模改修が進むことになり、格段に安全体制が強化される筈です。さらに、安全管理の目標の引き上げに努力します。
 昨年度に続き、相互巡視(異なる専門の研究員による巡視)などを行い、整理・整頓、スペースの適正配分などのレベルから、もう一度安全問題を見直すことにします。
2)研究員の権利が侵害されるリスク
 知財や情報流出などのリスクを防ぐ対策をとります。
3)研究方法や、成果の社会的責任が果たされないリスク
研究部門全体で、信頼されるデータや評価結果の提出が求められていることから、情報の信頼性確保、その点検、さらには情報発信の際の注意と点検が必要と考えています。昨年度と同様、研究成果は、チェックなしに発表することができないとうルールを徹底します。

4.コンプライアンスに関する考え方

 コンプライアンス問題に対しては、部門トップが率先することが最善の方策と考え、経営会議メンバーがまず、積極的に取り組みます。
必要とされる倫理感、ルールなどが工技院時代のそれとは大きく異なること、したがって、従来通りに進めれば、重大なルール違反になるとの認識が欠如していることが、インコンプライアンス問題の根元と考えています。ルールが大きく変化しているのは、産総研の組織の性格の変化だけでなく、外側の社会の意識の変化が大きいということを認識しなければならないと思います。
従来のしきたりの徹底的な見直しを進めたいと思います。と同時に、ルールが現状に合わず、研究を円滑に進めることのできない場合には、ルールの改善を求める動きを外部に対して行いたいと考えます。
 昨年度後半から、毎月「規程類読み合わせ」を行っています。これは、産総研が定める規程類を、毎月テーマを決めて、全職員(非常勤職員を含む)が読み、グループ会議で問題点を抜き出し、毎月のGL会議で報告し、部門長・副部門長が皆の疑問に答えると同時に、部門としての課題を抽出することです。今年もこれを継続します。

5.成果の普及

 成果の発信・普及に努力します。
 昨年度サービス部署を作ることを宣言したのですが、資金、人手の点で見直しが必要となっています。2-2.で述べた今年度の検討課題のひとつと考えています。

6.個人評価の方針

6-1.短期評価(基本は昨年度と同じですが、⑥を加えました)

①短期評価は、グループ長(GL)による評価と研究部門長による評価を考慮した総合評価とします。(GLによる評価は、年度はじめに出された目標の達成度を基に評価を行う)。部門長による評価は以下のような考え方で行います。
②短期評価は、年度内に出された成果(evidence付き)を基に行います。
③部門長は、年度初めに、以下の3項目について申請された各自のeffort(年間計画に書く)に応じた比率で評価を行います。
 ・基礎研究(主として論文等で評価)
 ・プロジェクトへの貢献、成果(evidenceが必要)
 ・社会への貢献(外部での活動)
④短期評価の結果は業績手当の査定額に反映させます。
⑤年度のはじめに、研究グループの研究計画が確定する前に、部門長(1人で対応)による個人面談を行います。
⑥研究プロジェクトや共同研究については、その個人の果たした役割、そのレベルを証明できるevidenceが必要です。この点にご注意ください。

6-2.長期評価

①長期評価は、これまでの実績に加え、マネージメント能力、指導者としての発展性などを加味して行います。

7.人材育成の取り組み

7-1.研究部門内での取り組み

  研究員は、一定の専門性を身につけると同時に、融合的な課題で研究開発できるようになるべきであるとの考えに基づき、若い研究員を育てることを基本的な課題とします。
<若手研究員をエンカレッジするための手立て>
①研究グループは専門性を重視して組織し、プロジェクトはグループ横断的に組織することを基本としています。研究グループは、若い研究者が専門領域のスキルを身につける場です。
②若手研究者の自発性を応援する意味で、昨年度「部門内科研費制度(仮称)」を作りました。これも継続します。
③My Paper(Presentation)を実施します。筆頭著者による論文(英文、査読有り)が発表された折、それを発表する機会を用意します(部門長出席)。これを短期評価に反映させます。
④短期評価を通して、研究の方向性に関する議論を行います。
<融合的課題の指導者育成>
 分野融合的な研究課題をマネージできる幹部研究員の育成に力を入れます。そのためには、筋の良い分野融合的なプロジェクトを立ち上げることが重要で、その仕事は部門長の仕事と考えています。

7-2.外部人材の育成

 多くの大学、国際機関の活動に協力します。
また、外国との共同プロジェクトでの、人材交流に協力します。
経産省とも協力して、企業の人材育成に資するプログラムに参加します。