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新規技術体系のリスク評価・管理手法の研究-ナノ材料のリスク評価-

グループ リスク評価戦略グループ
プロジェクトリーダー 蒲生 昌志

1.研究の背景

持続発展可能な社会を実現するには、様々な分野での技術のイノベーションが必要です。しかし、新しい技術には、人・環境・社会に対する悪影響をもたらす側面があるかもしれません。そういった悪影響のリスクがきちんと評価・管理されていなければ、技術導入後に大きな損害が生じたり、逆に、リスクへの懸念から技術のイノベーションが阻害されたりするでしょう。 この部門重点プロジェクトでは、現在、重要な事例研究として、ナノ材料のリスク評価手法に関する研究を進めています。ナノ材料のリスクについては、上のような問題意識から、国内外の研究機関、企業、国、国際機関などで活発な取り組みがなされているところです。

2.研究の概要

ここでは、ナノ材料のリスクの中でも、とくに作業環境で吸入した場合の人健康へのリスクを対象としています。ナノ材料のリスク評価の枠組みは、一般の化学物質で行われるような有害性評価と暴露評価に基づくリスク評価を中心としつつも、それを拡張する必要があります。すなわち、ナノ材料は、試験試料の調製、気中・液中計測が困難であるため、その部分の研究開発が重要な要素となります。また、技術動向や規制動向を踏まえたリスクガバナンスの検討も重要です(図1)。さらに、同じ物質であっても、サイズや形状等が異なる多様なナノ材料が無限に存在するということも、ナノ材料のリスク評価において考慮されるべき点と言えます。

uid000035_201303271410373ff0d389 図1 ナノ材料のリスク評価の枠組み(緑:一般の化学物質のリスク評価と共通の部分)

安全科学研究部門では、2006年度から2010年度まで、産総研内部の他ユニットや外部の大学と連携を取りながら、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクト「ナノ粒子の特性評価手法の研究開発」を実施しました。世界的にもナノ材料のリスク評価の方法や実施例が全く存在しない状況でスタートしたプロジェクトでしたが、ナノ材料の気中・液中での計測方法や、有害性試験の試料調製方法に関する検討から始めて、質の高い有害性と暴露のデータを取得しました。また、得られたデータを基礎として、さらにリスク評価のための手法や考え方を検討することによって、カーボンナノチューブ、フラーレン、二酸化チタンのリスク評価書を作成しました。その中では、作業環境での許容暴露濃度(作業環境での空気中濃度がそれ以下であれば、健康被害の懸念が極めて小さいと考えられる濃度)も提案しました(図2)。 uid000035_2013032714163553d39af8

図2 NEDOプロジェクト「ナノ粒子の特性評価手法の研究開発」の成果 リスク評価書(左)と許容暴露濃度の提案(右)

この成果を基礎としながら、現在、現実社会でのリスク評価・管理を可能にするために必要となる基盤的な評価技術の開発として、二つの課題を進めています。一つは、行政による管理で求められる効率的な有害性評価技術の構築、もう一つは、事業者によるナノ材料の簡易自主安全管理技術の構築です(図3)。それぞれ、経済産業省受託事業、及び、NEDO受託事業として実施しています。

uid000035_201303271423126ee37d1c 図3 安全科学研究部門でのナノ材料リスク評価プロジェクトの展開

「ナノ材料の安全・安心確保のための国際先導的安全性評価技術の開発」 (経済産業省受託事業:2012-2015年度(予定)) ナノ材料は、既に上市されているもの、今後研究開発されるものを含めて、極めて多種多様です。たとえば、「二酸化チタンナノ材料」と称される材料の中でも、サイズ、形状、表面処理などが異なるものが多数あります。そのため、行政による管理を行うにあたり、これまで一般の化学物質に対して行われてきた有害性試験・評価方法での対応は困難と考えられ、合理的かつ効率的な有害性評価の枠組みの構築が求められています。 本課題では、安全科学研究部門を中心とした産総研内の複数ユニットや外部の大学や試験機関の連携のもと、行政による管理の枠組みを念頭に、1)ナノ材料の「同等性判断」の構築 、2)初期有害性情報取得のための「気管内投与試験(ナノ材料を懸濁液として試験動物の肺に投与する)」の確立という二つのテーマを柱として研究を進めています。安全科学研究部門は、全体取りまとめに加え、上記2テーマの基盤技術としてのサブテーマ「ナノ材料の体内分布及び生体反応分布の定量化技術の開発」を担当しています。

1) ナノ材料の「同等性判断」の構築

仮に、サイズや形状にわずかしか違いがないなら、ある範囲のナノ材料を同じものと見なせるかもしれません。そうすれば一つ一つ全てに対して詳細な試験・評価を行うことは不要となって、試験・評価の数を合理的に減らすことができます。このための考え方が「同等性判断」です。「同等性判断」の構築のため、現在、有害性の強弱に影響を与える物理化学特性は何かを調べています(図4)。ここでは、ナノ材料を直接取り扱う作業者での健康影響として、呼吸器系の有害性に焦点を当てています。

uid000035_201303271442374db96729 図4 同等性判断のための研究フレームワーク

2)初期有害性情報取得のための「気管内投与試験」の確立

呼吸器系の有害性を調べるためには、吸入暴露試験(試験動物に、ナノ材料のエアロゾルを吸わせる)という方法で評価するのが一般的です。しかし、吸入暴露試験の実施は、技術的難易度が高く、費用もかさみます。一方、気管内投与試験は、動物試験としては安価で簡便な方法ですが、必ずしも行政目的では活用されていません。気管内投与試験を、初期有害性情報を取得する目的で使えるようにするため、吸入暴露試験と気管内投与試験の比較、標準化を想定した手技の検討を行っています。 「ナノ材料簡易自主安全管理技術の構築」 (NEDO受託事業:2010-2014年度(予定))   次々と新しく多様なナノ材料が開発され、市場化が検討されています。そのような状況では、通常の化学物質とは違い、国際機関や監督省庁によるルールを遵守するだけでは間に合わず、事業者自らが(場合によっては先手を打って)ナノ材料やそれらを含む製品の安全性の確認に取り組む必要があります。 本課題は、技術研究組合 単層CNT融合新材料研究開発機構による研究プロジェクトの一環として、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の大量合成技術や部材への分散技術の開発と並行して実施されています。カーボンナノチューブ(CNT)を主たる対象として、事業者がナノ材料の安全性を自主的に確認するために必要な考え方や技術を開発しています。

1) 簡易で迅速な有害性評価手法の開発

CNTの有害性評価のための簡易で迅速な自主管理支援技術として、有害性試験のためのCNTの分散調製方法の開発と液中計測手法の確立、および、培養細胞試験による有害性試験手順の確立に取り組んでいます(図5)。

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2) 安易で簡便な暴露評価手法の開発

事業者が現場で事業者が現場で自ら計測可能な安価かつ簡便なCNTの気中濃度の計測手法を開発するとともに、CNTの多様な現場プロセスにおける排出特性を把握・予測する手法を開発しています(図6)。また、CNTを含むコンポジットが利用された場面を想定して、切削・摩耗した場合の放出試験も実施しています。

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図6 粒子飛散および暴露濃度の予測手法の開発

3)自主安全管理手法の確立とケーススタディの実施、情報収集および発信

1)や2)で開発された技術を、事業者に実際に利用してもらうために、具体的な材料に対する安全性知見のデータ集を作成するとともに、自主安全管理の例を示します。また、国際標準化機関(ISO)や経済開発協力機構(OECD)などの国際機関の動向や、欧米の行政機関による法規制に向けた動向を随時チェックし、twitter(@Nanosafety)による速報を行うとともに、そのうち重要なものについてはNanosafetyウェブサイトの記事化による情報発信を行っています。 これら二つの課題で開発されている評価技術を図7にまとめました。行政による管理の枠組みと事業者による自主安全管理とを両輪に、必要性や場面に応じて、簡易な評価から詳細な評価へ段階的に進むことを想定しています。 uid000035_20130327152125d86c3d5f

図7 開発されているナノ材料の有害性評価技術と暴露評価技術の位置付け

3.研究が目指すもの

本部門戦略課題の研究成果は、国際機関や社会に積極的に発信することにより、新機器技術であるナノ材料のリスクへの漠然とした不安を払拭し、健全な技術開発、安心・安全な利用に貢献します。 また、将来的には、ナノ材料のリスク評価手法をひな形に、新規技術のイノベーションを促進することに貢献できるリスク評価・管理技術を確立し、持続可能な社会の実現と産業の国際競争力の向上に貢献したいと考えています。

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