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新規社会システムのライフサイクル評価手法の研究

グループ 素材エネルギー研究グループ
プロジェクトリーダー 玄地 裕

1.研究の背景

持続発展可能な社会を構築するためには、新たな社会システム(新規技術・政策)を導入することが必要不可欠です。

しかしながら、環境・経済・社会への直接的な影響だけではなく、人間の生活行動を考慮したシステム導入やそれに伴う産業構造の変化など、大規模に技術やシステムが普及したときに社会全体に波及的に生じる間接的な影響まで動的かつ包括的に評価することが、すでにバイオ燃料などの新たな社会システム導入の際に、求められ始めています。

p1図1.新規社会システムのライフサイクル評価手法の枠組み

2.研究概要とこれまでの成果

上記背景のもと、本重点プロジェクトでは、社会システムの個々の構成要素と環境問題の関係だけでなく、システム全体が与えうる新しい影響領域を評価する手法を検討し、普及の見込まれる新規社会システムの影響評価手法を開発することを目標として、研究を進めています(図1参照)。

具体的には、ケーススタディを通じて、直接・間接影響の要因、重要な影響領域の抽出を行い、影響の定量化手法の確立を通じて、システム導入に際して重要視すべき点を検討します。その結果を企業、研究機関などの技術開発現場や国、地方自治体などの資源、エネルギー等の政策に提供、共有することで、新たな社会システム(新規技術・政策)の導入に貢献することを目指します。

本戦略課題における現在の研究課題は以下の4つです(図2参照)。

(1)影響評価手法の開発
(2)行動変化分析
(3)素材/資源フロー解析
(4)インベントリデータベース開発

p2図2.戦略課題のロードマップ

(1)影響評価手法の開発

新規社会システム導入に伴う影響を評価するため、手法開発要請が高い、あるいは、今後、評価項目として重要になると思われる新しい影響領域(水資源消費、土地利用、希少鉱物資源の消費、都市の温熱環境)に対応した影響評価手法の開発を進めてきました。水資源消費に伴う人間健康では世界162カ国に対応した影響評価係数リストを作成し(図3参照)、土地利用では代表的な土地利用区分(森林、荒地、田、その他農用地、建物用地、幹線交通用地)ごとに日本の3次メッシュレベルの生態系サービス損失評価係数、希少鉱物資源消費ではレアアースの消費に関わる影響評価係数、都市の温熱環境に関して排熱による熱ストレスと睡眠障害による健康被害の評価モデルを開発しました。

成果の一部は新たな環境影響の定量化研究として、包装材料やIT機器など様々な製品の評価への適用が既に始められています。

p3図3.水資源消費のインパクト評価

(2)行動変化分析







震災後、節電は重要な課題の一つです。節電行動は、当該空間・当該時間帯の電力需要を削減する一方、他の空間あるいは他の時間帯の電力需要を増大させる恐れがあります(波及的な間接影響)。そこで、間接影響が考慮できるように消費者の1日の生活行動シナリオを作成し、都市気象-ビルエネルギー連成モデルAIST-CM-BEMを用いて、社会全体の毎時の電力需要を計算することで、正味での節電効果を評価しました。その結果、輪番計画停電(住宅・業務ビルが1/5ずつ停電)シナリオは、停電時は20%の電力需要が削減されますが、停電中に温度が上昇した屋内空間を冷却すべく停電直後に一斉に空調を稼働させる、という消費者行動が発生するため、正味では10%弱の電力需要しか削減されないことが分かりました。また、サマータイムを導入すると、気温の高い時間帯での消費者の帰宅を招き、住宅の空調需要が増大するため、却って最大電力需要が増大する恐れがあることが分かりました(図4参照)。以上の成果は、産総研ホームページ「主な研究成果」として公開しました。

p4図4 サマータイム導入による電力需要シフト

(3)素材/資源フロー解析

社会における金属資源利用を議論するためには、各素材の需要量やスクラップ発生量の変化の長期的な推計が有用です。そこで、需要の大きいアルミニウムを対象としてマテリアルフロー解析をおこない、2050年までの需要量やスクラップ発生量の推計をおこないました。日本、米国、欧州、中国の4地域について解析した結果、アルミニウム需要は2050年に全体で約5,000万トン、スクラップ発生量は約4,500万トンに達すると推計されました。また、様々な技術導入がアルミニウムの循環利用に与える影響を定量的に示しました。例えば、次世代自動車の導入についてシナリオ分析をおこない、電気自動車の普及によって、従来自動車のエンジン部分に使用されてきたアルミニウム鋳造品の需要が縮小することを示しました。そして、低品位スクラップの主要なリサイクル先である鋳造品の需要が縮小することによる、生産段階におけるスクラップ利用可能量の低下と新地金消費量の増加を評価しました。さらに、低品位スクラップと高品位スクラップを分別するソーティング技術の導入によるリサイクルの促進について、その影響を新地金消費量の削減量として推計しました。(図5参照)

p5図5 アルミニウムのマテリアルフロー解析と循環利用の評価

(4)インベントリデータベース開発

既往のインベントリデータベースはケーススタディの結果の蓄積に基づいており、すべての製品の環境負荷データを得ることができませんでした。そこで、網羅性が担保された世界最大規模のインベントリデータベースを目標としてデータベース開発を行い、2010年11月に, 積み上げ法による日本標準産業分類に基づいた約3000分類のデータを持つデータベースIDEA(Inventory Database for Environmental Analysis)を公開しました(図6参照)。この規模は世界最大シェアのインベントリデータベースEcoinventと同等で、網羅性を考慮すると世界最高水準のデータベースです。この成果を基に、経済産業省によるカーボンフットプリント施行事業の公開原単位データを作成しました。

今後Scope 3や環境フットプリントなどの事業にIDEAを活用する予定です。現在、IDEA Ver2の開発および、産業間の連鎖構造分析を行うために必要なデータ構築を実施しています。

p6図6 IDEAデータベースにおけるデータ項目

3.研究が目指すもの

本部門戦略課題の成果は、他の事例に対しても適応可能な一般的な手法やデータベースとしてとりまとめ、社会にもたらす、間接的な影響も含めた総合的な評価手法として公開することで、新たな社会システム(新規技術・システム・政策)の導入を促進し、持続可能な社会の構築に貢献することを目指します。

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