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フィジカルハザード評価と産業保安に関する研究

グループ 素材エネルギー研究グループ
プロジェクトリーダー 匂坂 正幸

1.研究の背景

この部門重点課題では、公共の安全確保や産業保安技術の向上に重点を置いて、化学物質の燃焼・爆発の安全に係わる政策ニーズおよび国際標準化対応のための総合的な研究を実施しています。具体的には、燃焼・爆発および関連する現象の評価・管理技術や企業などの保安向上に対する意識、取組みに対するポテンシャルをはかる産業保安力の評価手法の開発について研究を推進しています。

2.研究の概要

この部門重点課題では、大きく分けて4つの課題に取り組んでいます。

(1)産業保安力評価
(2)爆発現象の解明
(3)高速反応現象の科学
(4)爆発危険性の評価技術の開発

それぞれの課題について、概要をご紹介します。

(1)産業保安力評価

事故情報を提供し、事故防止に活用して貰うために、「リレーショナル化学災害データベース(RISCAD)」を公開しています。その中で開発された事故を時系列で整理して原因や対策を分析する手法,事故分析手法PFA(Progress Flow Analysis:事故進展フロー図を用いた事故分析手法)のセミナーを行うとともに、メールマガジンを発行して普及活動を行いました。毎年、新規事例、事故事例分析結果をRISCADに追加し、年間約40,000件超のアクセスがあります。

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図1 事故進展フロー図の様式

また、経済産業省の保安力評価事業に参加し、安全文化および安全基盤からなる保安力評価項目の策定およびこれらを用いた事業所の自己評価の試行に協力しました。保安力評価項目と事故との関連性を調査し、評価項目間のつながりや事故防止のために強化すべき項目について整理するなど、研究機関としてのバックアップを行っています。

(2)爆発現象の解明

行政ニーズに対応して、火薬類の爆発や燃焼現象のスケール効果を把握するため、実験室規模の実験に加え、可能な限り規模の大きい実験を実施しています。新しい構造の火薬庫に関して、法令に基づいて、経済産業大臣が危険のおそれがないと認めた場合の特則承認取得のための安全性評価も行っています。

高圧ガスに関しては、経済産業省やNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)からの受託事業や民間企業との共同研究を実施しながら、様々な高圧ガス等に関する漏えい拡散、着火燃焼実験を実施し、漏えい拡散シミュレーション、着火メカニズムの解明や燃焼メカニズムの解明研究を行っています。

p2図2 赤外線撮影により可視化した水素の球形火炎

火薬類や危険物に代表されるような高エネルギー物質が高速反応する際の伝播速度や圧力などの物理量は、物質を構成する粒子サイズや構成物質の分布に依存します。そこで、高密度な高エネルギー物質、ならびに、それと3桁も密度が異なる空気との混合系をミクロンサイズの格子でモデル化し、計算を実施するシミュレーション技術の開発に取り組みました。その結果、現実の爆轟測度を再現できるシミュレーション技術を開発しました。これらの結果をマクロな流体反応流れ計算に応用することで現実的で正確な爆発影響評価を実現したいと考えています。

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図3 メソスケールの爆轟シミュレーションモデル

(3)高速反応現象の科学

高エネルギー物質が爆発する反応は、超音速で伝播する衝撃波を伴うため、非常に高速の現象です。そこで、パルス幅がナノ秒程度の高輝度パルスレーザーを用いて時間分解能を向上させて、現象を分子のレベルで明らかにすることを目的として、計測装置の開発と衝撃圧縮実験手法の高度化を進めています。その結果、衝撃波が数百ミクロン程度のペンスリット単結晶爆薬の内部を伝播する過程を、ナノ秒時間分解型ラマン分光法によって測定することに成功しました。

(4)爆発危険性の評価技術の開発

高エネルギー物質の反応危険性の評価に関しては、国連が勧告する爆発性評価試験方法を改正するため、経産省基準認証研究開発事業において、示差走査熱量計(DSC)と断熱熱量計について約50種類のモデル化学物質を選択し比較評価を行いました。その結果、断熱熱量計は原理的に発熱分解エネルギーを評価することは困難で、標準測定法から除外すべきであることが実証でき、2012年6月の国連危険物輸送小委員会で、日本から提案した国連勧告の改正案が採択されました。DSCについては、測定容器の種類や材質が測定結果に大きく影響するため、DSC測定条件の国際的標準化について各国の専門家と協議を進めるとともに、2013年1月にJISが制定されました。

3.研究が目指すもの

本部門重点課題の研究成果は、法規制への反映や標準化、あるいは、情報の公開といった社会への還元を通じて、火薬類や高圧ガスなどの高エネルギー物質の便益を安全・安心、かつ低環境負荷で享受できる社会の構築に貢献するために活用します。高エネルギー物質の安全性評価ツールの開発・標準化と保安・管理技術の開発・普及、および、これらの基盤となる基礎科学の強化を目標として研究を実施していきます。

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