産業技術総合研究所(AIST)  >  研究部門  >  安全科学研究部門(RISS)  >  外部予算PJ  >  リスクトレードオフ解析手法開発
日本語 | English

リスクトレードオフ解析手法の確立

ヒト健康リスク


はじめに
    有害性のエンドポイントが異なる被代替物質と代替物質間のヒト健康リスクのトレードオフを評価するためには,両物質間のリスクを比較するための統一指標が必要となります。質調整生存年数(QALY)を統一指標として用いることは可能ですが,ヒトでの用量-反応関係が明らかな物質に対してのみ算出可能であり,ヒトでの用量-反応関係が明らかでなく,かつ限られた動物試験結果のみが存在する化学物質に対してもQALYを算出するためには,限られた動物試験結果からヒト健康への有害性を推論する手法を開発する必要となります。
    そこで,本研究開発項目では,化学物質のヒト健康影響を推論する手法を開発するとともに,ヒト健康リスクを統一指標QALYで比較する手法を開発しました。


 相対毒性値を推定する推論アルゴリズム


1)反復投与毒性試験情報データベース

・アルゴリズム構築の基礎としたデータは,NEDO化学物質総合評価管理プログラム(2001〜2006年度)で作成された有害性評価書・初期リスク評価書で,約150物質についての反復投与毒性試験の情報を抽出し,必要に応じて原著に当たる等しながら,投与量ごとの影響の種類や有無を整理しました。


2)推論アルゴリズム

・無毒性量の主要臓器(肝臓,腎臓,体重減少等)間の相関関係に基づいた共分散構造解析という統計手法を用いて,得られている動物試験の結果から,データのない主要臓器に対する無毒性量を推定し,他の物質との無毒性量の比(相対毒性値)を推定する推論アルゴリズムを構築しました。推定値は,データの充足度を反映して,信頼区間の形で得られます。

・推定の精度については,トルエンでの報告値を欠測とみなして推定することにより,報告値が推定値の信頼区間に入ることを確認しています。


 ヒト健康リスクを統一指標QALYで比較する手法

・化学物質間のヒト健康リスクを比較するための指標として,健康影響による寿命の短縮とQOL(Quality of Life:生活の質)の低下の両方を考慮できる損失QALYを用いました。損失QALYは,最も汎用性のある指標であるとともに,少ないながらも化学物質等のリスク評価での使用の実績があります。

・肝臓影響については塩ビモノマー,腎臓影響についてはカドミウムを参照物質として,それらのヒト疫学情報を解析し,まず,参照物質における暴露濃度と損失QALYとの間の用量反応関係を得ました。これに,上記の推論アルゴリズムで推定される参照物質と評価対象物質の相対毒性値を適用することで,評価対象物質の用量反応関係を得ることを可能にしました。


図1 ヒト健康リスクに関するリスク算出の概念図

・以上により,動物試験データしか得られていない物質について,リスクを損失QALYとして評価する枠組みを構築しました。これにより,ラットまたはマウスを用いた経口または吸入の毒性試験での主要臓器(肝臓,腎臓に加え,体重減少等)ごとの無毒性量の情報があれば,別途推定する摂取量や暴露濃度を考慮して,肝臓と腎臓に対する影響のリスクを損失QALYとして評価することを可能にしました。


    ヒト健康リスクトレードオフ評価の考え方と開発した方法を「ヒト健康リスクトレードオフ評価ガイダンス文書」として取りまとめ,主要臓器に対する無毒性量や相対毒性値の推論アルゴリズム,その基礎とした構築したデータベース,データベースに含まれる物質について計算した毒性等価係数については,当安全科学研究部門のホームページ(http://www.aist-riss.jp/main/modules/product/RTA_Human.html)上で公開しており,ダウンロードが可能です。