産業技術総合研究所(AIST)  >  研究部門  >  安全科学研究部門(RISS)  >  外部予算PJ  >  リスクトレードオフ解析手法開発
日本語 | English

リスクトレードオフ解析手法の確立

生態リスク


はじめに

化学物質の生態リスク評価では,毒性試験データが存在する化学物質は限られており,個々の物質の評価に利用可能な生態毒性のエンドポイントの種類やデータの数も異なっているのが現状です。また,生態リスクの大きさを表現する尺度については,これまでに様々な提案がありますが,リスクトレードオフ評価に適用する観点からの検討はほとんどなされていません。これまでの生態リスク評価手法は,毒性試験データに基づき,個別物質について判定することを目的としており,本事業の目的である幅広い物質間の生態リスクのトレードオフ評価には対応できません。

そこで,本研究開発項目では,個々の化学物質に関する有害性情報の有無や多少に係らず,それぞれの生態リスクを統一尺度で定量し,比較できる枠組みを検討し,生態リスクを種の感受性分布(SSD)に基づき統一尺度(影響を受ける種の割合)で評価・比較する枠組みを開発しました。これにより,限られた生態毒性情報しかない物質であっても,利用可能な生態毒性情報を生かし,SSDを推定し,暴露情報を考慮して,影響を受ける種の割合を指標としてとして評価できるようにしました。


図1 リスクトレードオフ解析における生態リスク変化量算出の概念図

1)基本データセット

・限られた生態毒性情報からSSDを推定する手法の開発のために,有機化合物および金属類の各種水生生物種に対する有害性情報,物性および構造に関する情報を収集・整理しました。約1200の物質について,水生生物に対する急性と慢性毒性値,物理化学的性状,官能基,原子構成等の情報を基本データセットとしてとりまとめました。


図2 4つの用途群物質等を対象に作成した基本データセット

2)SSDの推定法

・ニューラルネットワークモデル:基本データセットを基に,魚類の急性毒性値を推定するモデルを開発しました。推定精度は,一桁以内が約7割という結果です。モデルで推定した急性毒性値からSSDを推定する枠組みを構築しました。

・麻酔作用物質:既存有害性情報のパターン解析を行い,毒性作用分類群ごとにSSDの特徴を把握した結果,麻酔作用物質については,物性値からSSDの平均値の予測が可能(推定精度:おおむね1/2〜2倍以下)であることを明らかにした。さらに,麻酔作用物質について,有害性情報の有無や多少により,ブートストラップ法やベイズ法を活用し不確実性を考慮してSSDを推定する手法を考案しました。

・BLM(生物リガンドモデル):水質による水生生物に対する毒性が異なる金属については,SSDによるリスク比較を可能にするBLM(生物リガンドモデル)に基づく手法を確立しました。ミジンコに対する銅の急性毒性値に対しては,推定精度はおおむね1/2〜2倍でした。

SSDに基づく生態リスクトレードオフ評価の考え方と開発した方法を「生態リスクトレードオフ評価ガイダンス文書」として取りまとめ,当安全科学研究部門のホームページ(http://www.aist-riss.jp/main/modules/product/software/)上で公開しており,入手が可能です。