2008年12月21日 産総研オープンラボ講演会

中西準子発表資料

 

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「ナノテクの産業化に向けたリスク評価と標準化への取り組み」と題する講演会で、「ナノテクの安全・リスク評価」の課題について述べた。

まず、ナノテクのリスク問題とは何か?を考えよう。

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ナノテクに関する不安として大きく分けると、ここに示したように、生命倫理への危惧と、超微粒子だからこその危惧の二つがある。生命倫理問題は、ナノテクの医療用途との関連で出てきた問題で、当初は、ナノテクのリスクは、この倫理問題であった。しかし、ここ2〜3年の間に噴出してきた問題は、専ら超微粒子による健康影響と言っていいだろう。問題は、絞られてきた。

超微粒子の問題は、まずは、ディーゼル排出粒子の影響や、アスベストの影響と類似だから危ないという報道が続いた。

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これは、厚生労働省の医薬品食品衛生研究所の高木氏らの報告。多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を、p53欠損マウスの腹腔に注入して、中皮腫が起きるという報告で、大きな騒ぎになった。この研究の問題点については、以下を参照してほしい。
http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak426_430.html#zakkan430

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ナノ材料の健康影響を考える場合に、二つの異なる暴露形態があることに注意が必要である。

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縦軸は、暴露が受動的か能動的かの程度を示している。私たちが今問題にしているリスクは、受動的な暴露によるものである。この図のタイプ2である。つまり、望んでいないのに暴露される。

ナノの場合には、その医療用途が期待されているが、その場合には、その暴露は能動的なものである(タイプ1)。効用のために暴露を望んでいる。その際もリスクはあるし、そのリスクは当然考えるべきだが、受動的な場合とは管理の原則は異なる。

また、暴露経路も異なる。ナノの場合、医療目的の研究が先に進んでいたので、体内に注入した時、どういう変化があるかとか、生体親和性があるかなどのリスク研究が相当行われている。

この場合のリスクと、先に述べた受動的暴露によるリスクとは、まず、暴露経路が全く異なるので、別物である。それを、一緒に考えている、混同している人が多い。

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タイプ1の暴露に対応したリスクには、どう対処すべきかを書きました。

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今は、タイプ2のリスクに世界の関心が集中してきた。この有害性を考える場合にも、二つの流れがある。一つは、「繊維仮説」で、もうひとつは「微粒子仮説」。敢えて言えば、もう一つあって、「化学特性仮説」。3番目は、化学的特性で影響が異なるというもので、当たり前のことだが、ナノ特性と一緒に動くとすれば、やはり問題ということになる。

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繊維仮説は、アスベストの有害性研究から出てきた仮説である。仮説というより、もっと検証されたものとして受け止められている。しかし、アスベストが研究された時には、分からなかったことが今は分かるようになっており、この仮説は、今より分からなかった時の、ひとつの合意だということに注意が必要。

今年、英国のPolandら(エジンバラ大学)が出した、MWCNTについての報告は、まさにこの繊維仮説に依拠した研究で、MWCNTがアスベストと同じような挙動を示すということを主張するものである。しかし、たった7日間の研究であり、そういう結果を導き出せるとはとても思えないが。

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もう一つの大きな仮説が、粒子仮説である。ここに書いたような内容と、私は考えているが、先の繊維仮説ほど明瞭ではない。

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挟撃を受けるCNTs。

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NIOSH*(ナイオッシュと発音。国立産業医学研究所)は、二酸化チタンの作業環境基準として、ここに挙げたような数値を提案している。微粒子(fine:ミクロンサイズ)の場合は1.5 mg/m3に対し、超微粒子(ナノサイズ)では15倍も厳しい0.1 mg/m3

ここで、微粒子と超微粒子の定義に気をつけて欲しい。微粒子は、俗に言う吸入可能粒子(大体5ミクロン以下程度の粒子)、超微粒子の方は、一次粒子径で定義されている。

* National Institute for Occupational Safety and Health (NIOSH) of the Centers for Disease Control and Prevention (CDC)

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ナノの定義:では、ナノ材料はどう定義されているのだろうか?

ISO、TC229のWG1(用語命名法)での現在までの議論ではこの図に示すようになっている(tentativeではあるが)。この定義に従えば、NIOSHによる二酸化チタンの作業環境規制でのultra fine particleは、nanoparticleではなく、nanomaterialとなる。

(ISOでの討議の現状は、WG1の日本代表を務める産総研ナノテク研究部門副部門長阿部修治さんによる)

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これは、ここに示したような結果を基にしている。

縦軸は肺がんの発症率で、横軸は肺の単位重量当たりの粒子の用量、粒子用量は、質量用量ではなく、表面積で表現された用量である。NIOSHは、溶解度が低く、低毒性の粒子(PSLT:poorly soluble low toxicity particles)の場合には、物質の化学特性によらず、表面積で反応が決まると主張している。ただ、これが本当に正しいかどうかは定かではない。反対の結果も出されており、冷静に受け止める必要がある。

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ISO229では、ナノ材料の標準化を扱っている。その中のWG3(健康・安全・環境)に先般TR(テクニカルレポート)12885が出された。「ナノテクノロジーズ−ナノテク関連作業環境における健康、安全のための対策」とのタイトルがついている。

このTRはNIOSHの研究や実践を基に書かれたとある。TRはとりあえずこれまでの知見をまとめたもので、特にレビューされているわけではないが、米国が何を大事に考えているかが分かる。

最終的な結論は、できるだけ科学的知見に基づいて定量的に考えるが、情報が限られているので、定性的な判断も必要になるというものであった。防護具などについての情報が、相当整理されている。

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OECDの下での国際協力が始まっていることは、すでに4月のOECDとの共催によるシンポジウムでも発表した通りである。sponsorship programの中で14のナノ材料について、評価をしていくことになっており、我が国は、米国と組んで3物質について手を挙げた。

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当初、米国との間で取り交わした仕事の分担である。

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2008年9月4日現在、我が国が手を挙げた3種の物質について、参加を表明している国の一覧表である。ここで、BIACとは、Business and Industry Advisory Committeeの略。

OECDは、1962年に国際的な非政府機関との協議を行う決定を行い、TUAC(労働組合の代表)及びBIACをOECDと協議を行う非政府機関として認めた。 

BIACから、ARKEMAとThomas Swanが名乗りを挙げている。

アルケマ(ARKEMA)はフランスの化学会社。http://www.arkema.co.jp/
SWANは、英国の会社。もちろん、どちらも国際展開している。

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やはり、米国が2歩も3歩も進んでいる。米国は4方面から、ナノに取り組んでいる。NIOSHの活動については、すでに述べたので、2番目から入る。

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 岸本充生さんが作ったスライドを借用。これまでの経過。

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2008年7月28日までに、基本プログラムに名乗りを挙げた事業者が22事業者、93物質。これも岸本充生さんの作成。青色は、すでに報告書を提出した事業者。真ん中あたりにあるOffice ZPIは日本の企業。

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これは、今後提出予定の事業者。終わりから3番目に、昭和電工の名前が見える。
詳細プログラムに参加予定が3社。

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DuPontは、これとは別に、3種のナノ材料についてworksheetを作ると宣言していたが、その中の一つ、二酸化チタンのLight Stabilizer 210について、NMSPに出している。

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DuPontが出している内容の抜粋。自分の所で吸入試験や気管内投与試験をし、自分で作業環境クライテリア(DuPont AEL)を出している。

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作業場での対策一覧である。

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TSCA(有害物質管理法)は、日本の化審法と比べられる法律である。それが、ついに動き出した。

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ナノ材料を、この法律の下で新規物質として扱うかどうかが議論になってきた。EPAは、今回、Swan ChemicalsのMWCNTに対して、新規物質として生産のための条件を書いた同意指令を出した。

EPAは、TSCAの下で、MWCNTを新規物質と規程したが、それはナノサイズだからではなく、カーボンナノチューブの分子としての性質が、既存の物質と異なるからであるとしている。

Swan Chemicalsは、英国のThomas Swanの米国法人

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これは、我々のプロジェクトの吸入試験の計画と現実の進行状況。赤は計画で、黄色は現実の進行状況。白い▽は吸入試験、赤い▲が気管内投与である。我々のプロジェクトでは、いろいろやっているが、中心は吸入試験である。