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AIST-MeTra(金属類の環境媒体間移行暴露量計算ツール)[近日再公開] 

概要

金属類の環境媒体間移行暴露量計算ツールAIST-MeTraは、産業起因で大気中に排出された重金属が農作物に移行した場合の、農作物における寄与濃度および産業起因の暴露量を推定するツールです。

環境媒体間移行暴露モデルの開発

はじめに

プラスチック添加剤のような疎水性低揮発性の有機化学物質は有機物に分配されやすく,環境中に排出された後は,大気あるいは土壌を経由して農作物や飼料作物に移行し,飼料作物中に移行した物質はさらに,家畜に移行します。また,金属およびその化合物(以下,金属類)も同様に,大気や土壌から農作物に移行し,さらに家畜に移行する可能性があります。

このため,疎水性・低揮発性有機化学物質や金属類のヒト健康リスクを評価するためには,農産物および畜産物経由の経口摂取量を適切に推定することが重要となります。しかし,個々の農作物への移行は,物性のみならず,個別農・畜産物の特性に大きく左右されます。さらに,個々の農・畜産物は異なる地域で生産される上に,生産地から消費地への流通経路も消費地ごとに異なります。このため,疎水性・低揮発性有機化学物質であるプラスチック添加剤や金属類のリスクトレードオフを解析するためには,農・畜産物を消費する一般住民の暴露を適切に評価できるツールが必要となります。

そこで,本研究開発項目では,環境媒体から農作物と家畜への移行を推定し,生産地から消費地への農・畜産物の流通量も考慮して,消費地の住民の農・畜産物経由の摂取量を推定する環境媒体間移行暴露モデルを開発することを目標としました。しかしながら,有機化学物質と金属では,環境媒体間移行のメカニズムが大きく異なるため,それぞれに適した環境媒体間移行暴露モデルの開発を実施しました。

疎水性・低揮発性有機化学物質用の地域特異的経口摂取量推定ツール(SIET)

疎水性・低揮発性有機化学物質を対象とする地域特異的経口摂取量推定ツール(SIET)は,生産地での農・畜産物中化学物質を適切に推定するための環境媒体間移行モデル(土壌モデル,植物モデル,家畜モデル),生産地から消費地への農・畜産物の流通量を推定するモデルおよび消費地一般住民の摂取量を推定する暴露モデルで構成される地域特異的な農・畜産物経由の経口摂取量推定ツールです。このツールのデータベースには,推定に必要な地域特異的パラメータ(気温,降水量,農作物出荷量等)と暴露係数(消費量,体重等)も含まれています。

1) 環境媒体間移行モデル

・土壌モデル:既報(神子ら,2005)の土壌モデルを基に,大気からの化学物質の乾性と湿性の沈着,土壌からの揮発,流出,溶脱,侵食および土壌中での分解を考慮し,土壌中濃度を対象地域の土壌の種類とその土性,気温および降水量から地域特異的に推定できるモデルを構築しました。
・植物の地上部(葉,茎,実)中の化学物質濃度は,TrappとMatthies(1998)の植物モデルで推定しますが,このモデルは個別の農作物中濃度を推定できないため,個別の農作物等に対する濃度補正係数(吉田・手口,2009)を用いて個別農作物中の化学物質濃度を計算できるようにしました。

表1 個別農作物中濃度推定のための濃度補正係数(吉田・手口,2009)
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・植物の地下部(根)中の化学物質濃度は,Briggsら(1982)の式で推定します。
・家畜モデルとしては,TravisとArms(1988)のモデルを採用し,牛肉と牛乳中の化学物質濃度を推定します。推定の際には,飼料作物中の化学物質濃度は上記の植物モデル推定濃度に飼料作物に対する濃度補正係数(吉田・手口,2009)を適用し,牛乳以外の乳製品(チーズ,バター,その他乳製品)中濃度は乳脂肪含量で補正して計算できるようにしました。

推定した3種の農作物(ほうれんそう,はくさい,にんじん)と3種の畜産物(牛乳,チーズ,牛肉)中のフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)の市町村別濃度を測定値と比較した結果,構築した環境媒体間移行モデル,ほぼ1/6から8倍の精度で推定できることが示されました。

2) 流通モデル

・流通モデルは,全国の市町村別生産地から消費地(京浜,中京および阪神)への農作物と畜産物の移動率を,農林水産省の農林水産関係市町村別データを用いて計算します。
・農作物については,葉菜(はくさい,キャベツ,ほうれんそう),果菜(きゅうり,トマト,ピーマン,なす(その他の野菜)),茎菜(たまねぎ,さといも(その他いも))および根菜(だいこん,にんじん)の計11種の農作物の移動率を計算します。
・畜産物については,乳製品(牛乳,バター,チーズ,その他の乳製品)および牛肉の移動率を計算します。

3) 暴露モデル

・環境媒体間移行モデルで推定した個別農・畜産物中化学物質濃度と流通モデルで計算した消費地(京浜,中京および阪神)への農作物と畜産物の移動率から,消費地における個別農・畜産物中化学物質濃度の分布を推定し,消費地住民の暴露係数(個別農・畜産物の摂食量,体重)から一般住民の経口摂取量を推定します。

DEHPについて,上記のモデルを用いて農・畜産物経由の摂取量を推定し,別途推定した水産物経由の摂取量を加えて,京浜地区における全食事中濃度と総摂取量を求め,既報値と比較した結果,全食事中濃度の平均は測定値の約1/2,総摂取量の平均は測定値の約1/3と,ほぼ同じオーダーでした(吉田・手口,2010)。

4) 地域特異的経口摂取量推定ツール(SIET) Ver.0.8

上記の環境媒体間移行モデル,流通モデルおよび暴露モデルを統合し,パーソナルコンピュータ(Windows-PC)のMicrosoft Office Excel上で動作するSIET Ver.0.8を作成し,公開しました。
このツールでは,メイン画面「モデル」で,化学物質の物性と分解パラメータを呼び込みまたは入力し,地域を選択し,計算ボタンをクリックすると計算を実行することで,下図のように,計算結果が表示されます。


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図1 SIET Ver.0.8のメイン画面「モデル」の表示

SIET Ver.0.8は,当安全科学研究部門のホームページ(/main/modules/product/software/)上で公開しており,ダウンロードが可能です。

金属類用環境媒体間移行暴露推定支援ツール(AIST-MeTra)

金属類のヒト暴露量を評価するにあたっては,環境中から農・蓄産物への移動・蓄積は重要な経路となります。これらの媒体間移行量を推定するには,図2のように,現象のモデル化が必要で,実際の計算には多くのパラメータを要します。

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図2 金属類の環境媒体間移行暴露の概念図

これらの背景を踏まえて,対話型インターフェイスを持ち,簡便な操作で金属類の媒体間移行量を推定できる環境媒体間移行暴露推定支援ツール(AIST-MeTra)を作成し,現在,公開準備中です。
AIST-MeTraの特徴は以下のとおりです。
◇産業起因で大気中に排出された金属が農作物および畜産物に移行した場合について,その寄与濃度および地域内の寄与量を農・畜産物ごとに推定する
◇AIST-ADMERで計算された大気沈着量と日本の土地利用情報を地域ごとに結合することにより日本の農・蓄産物の現実的な金属濃度を推定する
◇移行係数等,パラメータのデータベースを搭載しており,値を選ぶだけで計算できる

1) ツールの概要

AIST-MeTraはMicrosoft Excel 2007のマクロとして作成されています。マクロ有効ブックをダブルクリックして,環境媒体間移行暴露推定支援ツールを起動させます(図3)。
AIST-ADMERから出力したCSVファイルを読み込み,AIST-MeTraで使用する「土壌中濃度増分データセット」を作成します。

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図3 AIST-MeTraのメインパネル

次に,土壌パラメータを設定し,内蔵の土地利用データベースから地域を選択し,作成した土壌中濃度増分データセットを読み込みます。そして,濃度推定対象の農作物(コメまたはその他農作物)を選択し,単位面積当たりの作物収量と可食部の割合を設定します。
最後に,金属の土壌から作物への移行係数を選択します(図4)。表示されるリストは,内蔵のデータベースから読み込むことができます。

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図4 移行係数選択パネル

計算条件を確認し,「計算開始」ボタンを押すと計算が実行されます(図5)。

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図5 計算条件確認パネル

計算結果例を図6に示します。大気沈着寄与分の地域内の合計と,大気沈着寄与濃度の地域内平均が。最小および最大とともに出力されます。

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図6 計算結果例

2) ツールの検証

AIST-MeTraは産業からの排出による摂取量増分を計算するツールですので,現時点では,実測値との比較による検証は一部の金属,農作物のみで実施しています。バックグラウンド濃度を上乗せして実測濃度と比較した鉛の例では,コメにおいておおむね1/10~10倍の精度であることが確認されました。

AIST-MeTraは,当安全科学研究部門のホームページ上での公開を現在,準備中です。